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シャッツ法律事務所 岩元昭博さん

シアトル駐在日誌

アメリカでの仕事や生活には、日本と違った苦労や喜び、発見が多いもの。日本からシアトルに駐在して働く人たちに、そんな日常や裏話をつづってもらうリレー連載。

取材・文:磯野愛

岩元昭博さん

#28 岩元 昭博
■大阪府出身。ワシントン大学ロースクールを修了後、昨年10月にニューヨーク州の司法試験に合格し、現在はアメリカで就労できるOPT制度を利用して、シアトル市内にあるシャッツ法律事務所に勤務。7歳・5歳・2歳の子どもと妻との5人暮らし。

日本の丸の内総合法律事務所で弁護士として勤務していた頃は主に上場企業や関連会社に関わる紛争解決やM&Aなどの企業法務を取り扱っており、そのうち3年間は東京都の法務課で都の代理人として訴訟を担当していました。業務を行う中で海外取引や海外進出に関する相談など国際案件へのニーズが増えてきていることを実感し、このようなクライアントの声に応えたいという思いから、アメリカでの弁護士資格取得を目指し、2018年9月よりワシントン大学ロースクールに留学。昨年6月、LLMと呼ばれる9カ月間のプログラムを終え、大学院を修了しました。

ロースクールで使用した教科書

ワシントン大学には税法や知的財産法など細分化された7つのコースがある中、私が選択したのは、General Law LLMという、特定の分野に特化せず幅広い科目を選択できるコースです。契約の成立には何が必要か、何をしたら犯罪になるのかなど、根本では日本の法律と似たところが多く、日本での知識と経験が大いに役立ちました。膨大な量のリーディングやリサーチペーパーの作成など宿題も多く、大学の課題と司法試験の準備に追われて毎日クタクタで、ひと回りほど年齢差のある周りの学生たちの若いエネルギーがうらやましかったです。また、私が学部生だった頃の日本の法学部の教員はほとんどが法律の研究者でしたが、アメリカのロースクールでは弁護士や裁判官などとして活躍していた法律の実務経験者が教鞭を執るため、実務での経験に基づいた話など学生にとって聴きごたえのある講義となっているのが印象的でした。

ニューヨーク州の司法試験会場となったバッファローナイアガラコンベンションセンター昼休みには受験生の親が弁当を持って入口で待ち構えていた様子に驚いた

アメリカで司法試験を受験するためには、原則としてロースクールを修了している必要があります。弁護士資格は州ごとに取得が必要で、私はニューヨーク州の司法試験を昨年7月に受験しました。試験は2日間にわたって行われます。初日は午前と午後それぞれ3時間のエッセイ。午前は「MPT」と呼ばれる、設定されたシナリオに与えられた判例や資料の分析を加えて論述するもので、これは日本で行ってきた業務と似たところがあったので、英語で短時間のうちに処理しなければならないという点(実はそこがいちばん難しいのですが)を除けば比較的取り組みやすい内容でした。午後は憲法、契約法、刑法、民事・刑事訴訟法といった14科目の中から6問が出題されます。正直なところ全科目を完璧に準備することは時間の制約上難しいので、出題予測をするサイトや過去の出題傾向を参考にしてメリハリをつけた勉強をするのが常套手段なのですが、幸運にもバッチリ予想が当たりました(笑)。2日目は午前と午後各3時間それぞれ100問ずつの四択マークシート方式の試験。日本の司法試験にもマークシートの試験はありますが、科目ごとに分けて出題されるので頭を切り替えながら臨めます。一方、アメリカでは7科目からランダムに200問が出題されるため、どの法律について問われているのかを見極めながら解き進めていく必要がありました。2日間の試験が終わったあとは、肉体的な疲労感はもちろんありましたが、それ以上に解放感にあふれ、ホテルのプールで泳ぎまくりました(笑)。

受験勉強中はなかなか家族との時間が取れず、3人の子育てを一手に引き受けてくれた妻、そして新しい環境でそれぞれに頑張ってくれた子どもたちにはとても感謝しています。これからは、帰国するまでにもっとたくさん旅行にも出かけたいと考えています。9月からは日本で元の事務所に戻りますが、シアトルで得た経験を生かして、今までより幅広い案件に対応していきたいです。

2020年6月まで北米報知社でセールス・マネジャーを務める。北海道札幌市出身。2017年に夫の赴任に伴ってシアトルに渡るまでは、日本で広告代理店に勤務し、メディア担当、アカウント・エグゼクティブとして従事。ワシントン大学でMBA取得後、現在はシアトル発のスタートアップ、Native English Instituteのマーケティング担当として日本市場参入準備に携わる。趣味はテニスで、大会(とその後の打ち上げ)の再開を心待ちにしている。