昨年10月、文科省「在外校の特色化教育プログラム促進事業:教育DX推進プログラム」の一環として、日本の小学校と在外校の児童138人で行った合同オンライン授業。世界初の試みとなる今回の研究実践では、国と地域のあらゆる枠組みを超え、子どもたちが共に学ぶ授業が実現しました。
西尾由香■ 日本で公立小学校教諭として長年勤務した後、夫のワシントン大学関連病院への転勤に伴い渡米。2012年、海外子女教育研究校の四つ葉学院を設立した。日本教師教育学会、小学校英語教育学会の役員会員、また都内の現職教員として日米海外子女教育の研究に携わる。現在、国立教育大学教職大学院の修士課程に在籍。
Yotsuba Gakuin【土曜校】
14220 NE. 8th St., Bellevue, WA 98007(Stevenson Elementary School) ☎425-736-3189 info@yotsubagakuin.com https://yotsubagakuin.com
合同授業開催の背景と内容
2023年4月、文科省・外務省が「在外教育施設における教育の振興に関する施策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な方針」を発表しました。これは、新法「在外教育施設における教育の振興に関する法律」(在外教育施設振興法)に基づくもので、国際社会で成功する創造的人材の育成や、在外教育機関間の協力などを目標としています。
文科省は「在外教育施設重点支援プラン」(AG+事業)を立ち上げ、四つ葉学院は2017年から研究に参画。「多様化する補習授業校のニーズに対応したグローバル人材育成のためのプログラム開発と補習授業校間のネットワークの形成」プロジェクトの一環として実施したのが、今回の合同オンライン授業です。
昨年、10月25日・26日・29日・30日と、4日間にわたり展開したICT教科横断型合同授業。時差や国境、教科、学年、そして日本の小学校、補習校、日本人学校という教育システムの違いもある中、日本の小学校と北米、南米、中米の在外校、全15校の子どもたちをZoomでつなぎました。目標としたのは、効果的な授業法や、国際理解への興味・関心に関連する要因を探りながら、補習校の国語科での学びを広げる活動です。そのため、教師主導の一斉授業ではなく、班ごとに役割分担して、子どもたち同士が協働し授業を進行するアクティブ・ラーニング形式を取り入れました。
立命館小学校への夏の体験入学
今回の研究授業に日本から参加したのは、京都の立命館小学校。今年7月、四つ葉学院では在籍児童を対象に、2週間の短期体験入学&ホームステイを予定しています。
子どもたちは各教科の授業に加え、給食配膳、清掃、縦割り活動、全校集会、クラブや委員会も経験。また課外活動として、茶道、日舞、琴、習字、プログラミング、陶芸なども体験可能です。研究授業同様、子どもたちにとって、多様な価値観と触れ合い、異文化を理解し、共に学ぶ機会となることでしょう。
昨年は、ワシントン州日本文化会館(JCCCW)の協力の下に戦時中の日系人の歴史教育を行い、またチリ国立天文台とオンラインで結び、現場の天文学者から最先端の宇宙科学について学んだことも。JICA関係者を講師に招き、子どもたちが国際協力やキャリアについて考える場も設けました。今年も四つ葉学院では、教科書で得た知識や学びを生活や社会につなげ、子どもたちの学びをコミュニティー社会に広げる、教科横断型の授業デザインに取り組んでいきます。
国語(光村図書出版)
●小学4年単元「伝統工芸のよさを伝えよう」「パンフレットを読もう」
●小学5年単元「古典芸能の世界―語りで伝える」「みんなが過ごしやすい町へ」「方言と共通語」
●小学6年単元「古典芸能の世界―演じて伝える」「日本文化を発信しよう・パンフレット作り」
音楽 日舞と琴
社会・道徳 日本の文化や伝統への理解と関心を深める題材
研究授業を終えて
四つ葉学院はこれまで、他州の補習校中学部との国語×SDGs交流授業や、都内・関西の小学校とのICT教科横断型合同授業を実践してきました。その研究を礎に、在外校での学習をいっそう深められるよう、国語×社会×音楽×国際理解の教科横断型授業を計画しました。
▲四つ葉学院では、教育効果の高い指導技術や授業デザイン、新たな研究プロジェクトを一緒に実践したいという教員を募集中
参加した日本の小学校、補習校、日本人学校だけでなく、文科省、海外子女教育振興財団、日本の経済協力開発機構(OECD)、教職大学院など含め、多くの教育関係者が研究授業を参観。さまざまな視座から意見を共有でき、大きな学びの機会となりました。すでに2024年度も、今回集まった感想や意見、見解などを踏まえた研究授業が見込まれています。
合同授業では、他国、他州、そして日本と、遠方に住む子どもたち同士が、初めて会う他者との関係を築く必要があります。時差や国境だけでなく心の距離も縮めようと、「関わり方」を試行錯誤しながら学ぶ子どもたち。その伸びやかで素直な学びの姿が大変印象的でした。
◆在外校の児童◆
•日本や他国、他地域の学校生活、伝統工芸に興味を持った
•グループ発表や質問などで積極的に発言し、緊張を克服できた
•会話が楽しく、日本語をもっと練習したいと思った
•新しいことを知る機会になった
•お互いの地域について伝え合えたのがとても良かった
•他校とコミュニケーションが取れ、貴重な体験だった
•京都の文化発表では琴の演奏、日舞に親しめた
•日本に友だちができ、日本文化や京都にさらに興味が湧いた
•踊りや三味線の練習に費やした時間と努力がすごい
◆日本の児童◆
•本当に交流できるのかと思っていたけれど、みんな日本語ペラペラで会話が進んだ
•外国の人と話すことが全然ないので、いろんな国から参加してもらえてうれしかった
•母語じゃないのに日本語がうまくてびっくりした
•外国の人も頑張ってパンフレットを作っていた
•お琴を弾いたり雑談したり、楽しかった
•全然わからないのに日舞を一緒に踊ってくれた
•普段会えない人とたくさん話せた
•英語のほうが得意な子でも私たちに合わせて日本語で話し、質問にもちゃんと答えていた
•初めは少し緊張したけれど、ほかの子が積極的に話しているのを見ているうちに、自分もしゃべれるようになった
•ジェスチャーなどを使って、うまくコミュニケーションできた
•英語で話さないといけないと思い込んでいたけれど、相手に日本語が通じたので質問や受け答えも問題なかった
•日舞が上手と言われてやりがいがあった
◆教職員、教育専門家◆
•世界中の同年代の子どもたちが出会い、文化体験をリアルタイムで共有できた、素晴らしい国際交流の授業となった
•子どもたちが文化の相対性を学ぶ実体験が実現した
•目的の達成には、小グループでの練習が重要と思われる
•コミュニケーション能力全般および母語での対話能力の向上につながる経験であった
•国語、社会、音楽、英語、道徳とのコラボを通じ、伝統芸能の共有に成功した
•夢が広がり、新たなチャレンジが可能と感じた
•子どもたちが恥ずかしさやためらいを乗り越え、対話や交流を通して成長した様子が見られた
•教育的な価値として、失敗を受け入れる大人側の寛容性が問われる
•初の取り組みにもかかわらず、4日間にわたり、多くの子どもたちに参加の機会があった
•子どもあっての活動なので予想外のことは起こるものだが、お互いにカバーして工夫することが必要•子どもたちの頑張りが伝わってくる。同じ意見だったり「私も知ってる」と言われたりしたときのうれしそうな顔、「知りませんでした」と言われたときの誇らしげな顔。チャレンジとつながりの実感は、大きな教育効果となって子どもたちに残っていくと思う
•子どもたちのみのやり取りに「対話」の本質、 CEFRのいうところのメディエーション(仲介のコミュニケーション・スキル)に関わる要素がある。子どもたち主体で、対話セッションに責任を持つことは、対話と協働の取り組みに必要なタスク設定であった
日程:8月12日(月)事前学習授業、13日(火)~15日(木)
宿泊実習場所:Tolt-MacDonald Park & Campground
31020 NE. 40th St., Carnation, WA 98014
料金:$400 ※外部生価格
問い合わせ・申し込み:info@yotsubagakuin.com