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近現代史から各国の政情を読み解く

毎月数十点が出版され、「教養」「時事」「実用」と幅広い分野を網羅する日本の新書の新刊を通して、日本の最新事情を考察します。


┃近現代史から各国の政情を読み解く

従来の世界史解説では、アジア史は東アジア、 東南アジア、南アジア、と地域別に語られることが多い。『アジア近現代史/「世界史の誕生」以後の800年』(岩崎育夫著、中公新書)は、アジア史を地域別、国別に語るのではなく、一体のものとして捉えようという試み。本書ではアジア史を約800年前、各地域の土着国家の盛衰とモンゴル帝国誕生の辺りから概観し、西洋諸国の進出、日本による占領支配、第二次世界大戦後の独立などを解説する。アジア域内の交流がどう行われてきたのか、西欧を中心とした「外部勢力」の影響がどのように起きていたのかを整理し、現代に至る各国の状況を理解していく。イギリスのEU離脱など混乱に至る現在のヨーロッパを読み解くのが『ヨーロッパ現代史』 (松尾秀哉著、ちくま新書)。第二次世界大戦の反省から、「和解」の道を歩むべく、各国で完全雇用、社会保障を発達させた福祉国家体制が成立した。その福祉国家からの「救済」から、こぼれ落ちた層の不満は、どのような形で噴出したか。 石油危機、冷戦の終結、グローバル化による過酷な経済競争を経て、現在のヨーロッパの人々が 政治不信に陥った経緯を、各国の政治状況と共に検討する。

食の実験場アメリカファーストフード帝国のゆくえ鈴木 透著中公新書

食に関しては後進国のように思われがちなアメリカだが、決してそうではないというのが『食の実験場アメリカ/ファーストフード帝国のゆくえ』(鈴木 透著、中公新書)。アメリカの食は、直接のルーツであるイギリスだけではなく、西洋・非西洋の食文化や移民の食文化の伝統を取り入れつつ、想像以上に複雑な変化を遂げて築き上げられたものだとし、食からアメリカ社会の変遷を振り返る。自由な発想で創作される「スシロール」や、穀物、豆や豆腐など植物性タンパク質、野菜、果物を組み合わせる菜食主義者に人気の「ブッダボウル」など、「ヘルシー、エスニック」というキーワードで人気を集める、アメリカならではの創作料理の魅力も紹介する。

 

┃日本の地方分権改革の「光と影」

『日本の地方政府/1700自治体の実態と課題』(曽我謙悟著、中公新書)は、私たちの社会や経済にとって大きなウエイトを占め、日常生活にも大きく影響を及ぼす「地方政府」の実態について改めて検討するものである。日本の都道府県と市町村については、「地方自治体」「地方公共団体」という言葉がよく用いられているが、著者はタイトルを始め、本書では一貫してあえて「地方政府」というあまり耳慣れない言葉を使用。私たちは、地方においては国が策定した政策を実施するのみの存在にあると、無意識のうちに考えているのではないか、と指摘昨今、毎年のように異常な豪雨が日本の各地で発生し、地すべりや土砂崩れによる甚大な被害が繰り返されている。

宅地崩壊なぜ都市で土砂災害が起こるのか釜井俊孝著NHK出版新書

『宅地崩壊/なぜ都市で土砂災害が起こるのか』(釜井俊孝著、NHK出版新書)の著者は、「想定外」の豪雨や地震によるこうした「宅地被害」は自然災害だと思われがちだが、決してそうではない、ということを本書で明らかにしていく。 高度経済成長期、丘の尾根をブルドーザーで削り、その土砂で谷を埋める、という大規模な宅地造成が行われてきた。こうした盛土による宅地 開発で地すべりが発生する危険性は当時も何人もの学者により指摘されていたが、好景気の中、そうした声はかき消されてしまっていた。昭和の遺産とも言える強引な宅地開発のひずみが、今後も地震や豪雨などをきっかけに土砂災害を起こす危険性を想定しておくべきだと訴える。

ともに生きる仏教お寺の社会活動最前線 大谷栄一編集ちくま新書

『ともに生きる仏教/お寺の社会活動最前線』 (大谷栄一編集、ちくま新書)は、公共空間の場としての可能性を感じさせる「仏教の社会活動」をレポートする。今、「葬式」に頼らず、地域に開かれた活動が盛んな寺が注目を集めている。文化活動、貧困対策、子育てサポート、災害被災地支援など、さまざまなニーズに目を向けた活動を紹介する。寺すなわち「宗教(あるいは宗教団体) の社会貢献活動」が必要とされる、現代日本社会の抱える課題についても考えさせられる。

※2019年4月刊行から

 

湯原 葉子
連想出版編集部が出版する ウェブマガジン「風」編集スタッフ。新書をテーマで連想検索する「新書マップ」に2004年の立ち上げ時から参加。 毎月刊行される教養系新書数十冊をチェックしている。 ウェブマガジン「風」では新書に関するコラムを執筆中。