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平成時代の皇室を振り返る

毎月数十点が出版され、「教養」「時事」「実用」と幅広い分野を網羅する日本の新書の新刊を通して、日本の最新事情を考察します。


┃平成時代の皇室を振り返る

新元号「令和」の新時代幕開けに沸く日本。平成という時代を振り返ると共に、前天皇陛下その人について語る新書も刊行されている。

『平成の終焉/退位と天皇・皇后』(原 武史著、岩波新書)の著者は、平成とは、「天皇制の新たなスタイルが確立された時代である」と評している。著者は、平成最大の特徴として、天皇と皇后が常に行動を共にしてきたことを挙げ、天皇の傍らに寄り添う皇后の存在感にも触れている。皇太子妃時代から、夫を支え、3人の子どもを育て上げた核家族時代の「良妻賢母」、理想の女性として一定の役割を果たしていたことを評価しつつ、新時代になっても、「夫の一歩後ろを歩き、影ながら支える女性」が崇敬されることは負の側面もあ る、という指摘はなかなかほかでは見られない。新皇后には、キャリアウーマン出身の雅子さまにしかできない、新しい時代を担う女性としての積極的な発言を、と期待を寄せる。

平成の終焉退位と天皇皇后原 武史著岩波新書

 

『天皇の憂鬱』(奥野修司著、新潮新書)は、平成時代の皇室は、それまでとは何が違ったのか、日本人にとって象徴天皇とは何かを考えさせられる1冊。ノンフィクション作家の視点から、前天皇陛下その人の「心模様」に迫り、語られることはない「葛藤」を読み解こうとしている。平成の象徴天皇とは、それまでと違って「国民に敬愛され る永遠のスターでなければならない存在になった」と著者は分析する。皇后と共に地道に積み上げてきた「象徴天皇としての活動」を振り返り、個としての前天皇ご自身の孤独を感じ取る。

天皇の憂鬱奥野修司著新潮新書

 

『天皇の装束/即位式、日常生活、退位後』(近藤好和著、中公新書)は、誕生から崩御まで、節目ごとに定められた「天皇の装い」について専門家が解説する。明治以降、天皇の服装は「洋装を旨とする」とされたが、即位式など節目の儀式では、江戸時代までの天皇や周囲の人々と同様、奈良・平安時代以来の厳格な規定に従った「歴史的着衣」である「装束」を着ることになっている。現代まで皇室に引き継がれた装束の歴史を本書で確認しながら、歴史の節目となるビッグイベントでの新天皇、上皇それぞれの装束にも注目してみたい。

天皇の装束即位式日常生活退位後近藤好和著中公新書

『平成史』(保阪正康著、平凡社新書)の著者は、ノンフィクション作家。昭和史研究について多数の著作があり、その評価も高い。平成史を振り返る出発点として、2016年8月に「ビデオメッセージ」で生前退位の希望を国民に向け発信したことは、革命的な出来事であった、と指摘する。このビデオメッセージは、「8月15日の玉音放送」にも匹敵する、天皇の「血の叫び」のような、共通点があるとしている。時代が変化する中で、昭和の戦争がいかに語られてきたのか、昭和史との連続を踏まえて平成を振り返る。

┃日本経済は「停滞」だけの30年だったのか

『平成の通信簿/106のデータでみる30年』(吉野太喜著、文春新書)は、この30年間に何が起きていたのか、さまざまな角度からの「データ」で時代の変化を浮き彫りにしようという試み。

賃金や所得の変化など本書ではさまざまなランキングが紹介されているが、その背景に何があるのか、世界的な傾向か日本独自の傾向なのか、デー タを見比べながら参照していくと新たな発見がありそうだ。各分野、多岐にわたる指標はそれぞれ興味深いが、今後の日本社会にとって、世界水準に比して日本の「低迷」が特に深刻なのは、「18歳人口の減少」と、「教育費の公費負担額のGDP比が少ない」ことではないだろうか。

バブルの崩壊から「失われた30年」とも言われた日本経済。『日本が外資に喰われる』(中尾茂夫著、ちくま新書)は、不良債権処理ビジネスに詳しい著者が、ジャパンマネーはなぜここまで暴落したのか、当時の不良債権処理は適切だったのかを振り返る。世界経済の潮流が変化しても、いまだに日本人を呪縛するのが、戦前から続く「土地本位制」とも呼ぶべき土地担保信仰だと著者は指摘する。

「失われた○年」時代に唯一絶好調だった海外投資家たち。現在も、先物株式売買の中心地、大阪取引所で海外投資家が圧倒的比率を占めている点を著者は注視している。現在ブームとなっている観光立国化も、その内実を見てみると東京や大阪でインバウンド効果の恩恵を受けるのは、大手多国籍資本をバックにもつ外資系ホテルだという。

※ 2019 年 3 月刊行から(次号につづく)

連想出版編集部が出版する ウェブマガジン「風」編集スタッフ。新書をテーマで連想検索する「新書マップ」に2004年の立ち上げ時から参加。 毎月刊行される教養系新書数十冊をチェックしている。 ウェブマガジン「風」では新書に関するコラムを執筆中。