シアトルで活躍する日本人IT プロフェッショナルによってコミュニティー活動を目的に立ち上げられたNPO(非営利組織)、Seattle IT Japanese Professionals(SIJP)が、昨年12 月から四つ葉学院の土曜補習授業教室で月に1 度行う出張授業。コンピュータを学ぶのにコンピュータを使わない、斬新な授業風景をレポートします。
取材・文:ハントシンガー典子
思わず笑みがこぼれるユニークな授業
取材で訪れた1 月の授業のテーマは「サーチアルゴリズム(Search Algorithm)を楽しく学びましょう」。メイン講師としてGoogle社テストエンジニアの今崎憲児さん、サブ講師としてMicrosoft社シニアソフトウエアエンジニアの渡辺 毅さんが教壇に立った。はじめに小学3・4年生(今回は26人)、そのあと5・6年生(同20人)のクラスが開かれる。
今回のテーマ、サーチアルゴリズム (探索アルゴリズム)とは、コンピュータがたくさんの情報から欲しい情報を見つけ出す手順のこと。「サーチ」は宝探しゲーム、「アルゴリズム」は家具を組み立てる手順・料理を作る手順のようなものと、まずはプロジェクターを使って説明する。基本を理解したら、いよいよ3つのアクティビティーのスタート。お菓子を盗んだ犯人探しの動画に始まり、88の数字が記されたボールを探しながら立ったり座ったりの体を使った学習、そして紙と鉛筆を用いた「バトルシップ」ゲームと続く。子供たちは楽しい3つのアクティビティーを通して特定の数字(欲しい情報)の探し方を学び、サーチアルゴリズムの要領をすっかり体得したようだ。
実際にクラスを体験した児童に聞いてみると「動画が面白かった!」「ボールの数字を見つけたりバトルシップのゲームをしたり楽しい」「色んな方法で数字を早く探せたことが楽しかった。前回のバイナリーの数え方のクラスも良かった」と好意的な声が返ってきた。
勉強と気づかせないほど遊びいっぱいのクラスに
コンピュータ学習というと、コーディングなど実際のコンピュータ操作の習得になりがち。でもコンピュータの基本となる考え方をまず知って欲しい」とメイン講師の今崎さん。今回のクラスの目的も、先入観のない子供たちに「コンピュータは楽しい」と思ってもらうことだと言う。サブ講師の渡辺さんも「理解してもらうことが大前提。全く知らないことを、分かりやすくゲームで学べるようにしたい。あくまで楽しく遊べるのがゴール。いわゆる勉強にはしたくないんです」と、今後はさらにゲーム要素を追加し、子供たちがよりハマる授業を目指していくそう。SIJPはコンピュータ学習教材の制作に注力しており、こうした子供向けのコンピュータ授業もその一環。
Microsoft社にシニアビジネスプログラムマネジャーとして勤務するSIJP代表の保坂隆太さんは、「シアトルだけでなく、将来的には日本にも取り入れてもらい、業界ではまだまだマイノリティーの日本人ITプロフェッショナルが育ってくれれば嬉しい」と語る。
目の前の子供たちに何が必要かを考える
今回のコラボレーションは、SIJPがレドモンド図書館やカークランド図書館で定期的に開催している「子供コンピュータ講座」に、四つ葉学院の西尾由香校長が訪れたことが始まり。西尾校長はそのとき、「いきなりコンピュータではなく、まずは基本。スポーツでいうところの素振りから始めたい」というSIJPの活動趣旨に共感したそう。「実際に活躍するITプロフェッショナルの口から出た言葉なので説得力があります。子供たちの日本語での読解力や問題解決力を高める一助として、プログラミング的思考の学びをカリキュラムに取り入れてみたいと考えました」。そのためには、教員も基礎を学ぶ必要がある。そこで、SIJP協力による授業の導入に至ったというわけだ。
「プログラミング教育を通じてコミュニティーとつながり、有意義な教育環境を築きながら、子供たちにとってわかりやすく楽しい授業を今後も展開していきたい」と、西尾校長。四つ葉学院のコンピュータ授業は、2月の「ソートアルゴリズム」、3月の「コンピュータロジック」が予定されており、次年度の開催に向けて準備が進んでいる。
サーチアルゴリズム(探索アルゴリズム)を楽しく学びましょう
名探偵になって、お菓子を盗んだ犯人を見つけよう
プロジェクター画面には、時計とお菓子が並んでいる映像が……さて、犯人は何時にお菓子を盗んだのか? 子供たちは名探偵のキャラクターやお菓子に反応し、大喜び。動画のシークバーで再生箇所を変えて、まだお菓子がある、盗まれてしまったから映っていないと大騒ぎしながら、犯人がお菓子を盗んだ時刻を推測していく。そして「シークバーの真ん中をクリックしてお菓子が映っていなければ後半には犯人が映っていない。だから、犯人は前半に映っている」というサーチアルゴリズムの絞り込み方法を自然と理解することができた。ゆるキャラの犯人役に子供たちは大ウケ!
88と書かれたピンポン玉を誰が持っているか当てよう
立っているお友だち1人1人に聞いて回り、違う番号なら座ってもらう。これではなかなか当たらない。そこで、お友だちには番号順に1列に横並びしてもらうことにした。1つ目のアクティビティーを思い出してお友だちを列の真ん中で分け、まず88が左半分、右半分どちらにあるかを調べる。そして、あると判断した半分をさらに半分に分けて……と絞り込んでいく。今度は見つけるまでに番号を聞いた人数が少なくなった。
「バトルシップ」ゲームで遊ぼう
子供向けコンピュータ・サイエンス教材を無料配布しているCS Unplugged(http://csunplugged.org)の素材を元に、SIJPがアレンジしたプリント教材を使用。2人1組で遊ぶ。プリントにずらりと並んだ戦艦にはアルファベット、数字がそれぞれ記されており、対戦相手のお友だちには数字だけ教えて、どのアルファベットなのかを当てっこしていく。何回目で当てられたかは、子供によってバラバラ……。すぐ当てた子もいれば、なかなか当たらずに時間がかかった子も。でも、2回目で戦艦の数字が順番に並んでいるプリントに変更すると、真ん中のアルファベット(M)の数字を聞いて、半分に絞り込むことができた。
***** 参観保護者の声 *****
カイム曜子さん
お子さんが幼稚園年長クラスに在籍
四つ葉学院では日本語や基礎学力はもちろん、今回のクラスなど子供のために色々やってくれるのが嬉しい。自分も理系の学校に行っていたので頼もしいです
高島佳代さん
小学4年生の磨宙(まそら)くんが今回のクラスに参加
講師の方々のプレゼンテーションが上手で、聞いているだけで楽しいのが良いと思います。自分ではアルゴリズムなどさっぱりですが、子供たちが仕組みを分かっているのがすごい!