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特集 会いたかった人たち

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今回は、情熱をエネルギーに努力を重ね、アート、音楽、YouTube、社会環境改善と、異なる分野で活躍している若い人びとに会ってきました。

 

 

障害者が能力を発揮できる雇用環境を目指して
徐みづきさん

取材・文:杉崎奈紗 写真:山添史

現在、ニューヨーク州シラキュース大学内で障害者雇用について研究中の徐みづきさんは、自らも障害を持つ。研究の一環としてシアトルを訪れた徐さんに、日米の障害者雇用情況について聞いた。

スターバックスで感じた多様性の強み

▲ シアトル滞在中に訪れたスターバックス本社で社員の人たちと記念写真(写真提供:徐みづき)
▲ シアトル滞在中に訪れたスターバックス本社で社員の人たちと記念写真写真提供徐みづき

「『多様性こそが新しい視点を招き、より良いものを生み出す』とよく耳にしますが、それを体感したのがスターバックスでした」と語る徐みづきさん。スターバックス本社でアクセシビリティ向上を目指すグループ゛Access Alliance”の定例会議に参加した時のこと。Tシャツのデザインを決める際に、聴覚障害の社員が「手話を使う人にとって、胸元の派手なデザインは注意の妨げになる可能性があるから、袖部分にデザインを入れたらどうでしょう」と提案した。それを聞き、「障害という強みを生かして発言できる環境があり、周囲もその意見を尊重し、反映させていたんです。これがダイバーシティ&インクルージョンの強みだとわかりました」と語る。

海外生活を経て気づいたこと
アメリカの大学へ留学経験をもつ徐さんは、「留学中、自分の障害を意識することがなかったんです」と話す。車椅子で便利に生活できたことに加え、日常生活でも障害者を目にする機会が多かった。スーパーでは車椅子で働く店員も見つけ、「障害があっても何でもできる」と感じた。学士号を取得し、将来への期待を胸に帰国したが、待ち受けていたのは日本の就職活動の厳しい現実。障害者への期待値が低く、採用枠も配属先も限定されていた。「障害者ならこの仕事、と一括りに決めつける現状が、障害者雇用の課題を考える始まりでした」
転機になったのは、ある会社で携わった特例子会社の環境改善。日本は障害者の法定雇用率が定められており、従業員50名以上の企業に対して全体の2%以上は障害者を雇用することが義務づけられている。そのため大手企業の中には同グループ内に特例子会社をつくり、障害者雇用を促進するケースも多い。徐さんには、特例子会社は法定雇用率達成のために作られた、障害者を集める場所というイメージしかなかった。「実際に訪れると予想に反する回答が返ってきました。障害によっては単純な業務の方が働きやすい、仕事より体調を重視する人には無理なく働ける環境だと言われ、初めて特例子会社の利点に気付きました」。以来、障害者の能力が発揮できる雇用を実現したいと考えるようになった。

一人ひとりにとって働きやすい環境
そんな時にダスキン愛の輪基金を知り応募、第35期生に選ばれた。昨年10月からニューヨーク州で障害者雇用の研究を開始し、これまでアメリカの4つの州で20以上の企業や団体を取材した。
「一番衝撃的だったのは、Facebookで会った全盲のエンジニアのお話です」と言う。障害者差別解消法の施行により、日本でも注目される職場での合理的配慮。Facebookの環境を聞くと、「障害者だからというより、全社員が配慮を受けていますよ。必要なものは、障害者や健常者に関係なく誰にでも会社が提供してくれます」。限定された人たちだけでなく一人ひとりに働きやすい環境を作るという、予想外の回答。「職場環境に対する日本との根本的な違いを痛感しました」

同じ空間で勉強すること
徐さんは、研究過程で日米の教育環境の違いにも興味を持った。アメリカの学校には理学療法士や作業療法士が在籍し、トレーニング設備が整った場所もある。障害を持つ生徒は基本的に健常者と同じ教室で授業を受け、援助が必要な生徒には専任助手が付き、各人の能力に合った方法で学ぶ。幼い頃から日常的に健常者と障害者が一緒に過ごすことで、相手への接し方を自然と身に付け、障害を受け入れやすい環境があるのだ。「学校で自然に吸収したことは、将来子どもたちが大人になって働く時にも役立つに違いありません」
「何でもまずは自分でやってみなさい」。幼少期から母親に言われたように、徐さんは精力的に様々なことに取り組んできた。今後は障害者雇用を中心としたコンサルタントや教育に関連するビジネスを立ち上げることを目標としている。企業の改善だけでなく、障害者の知識やスキルを向上させることで、双方にとってプラスに働くように後押ししたいと考える。

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徐みづき (Hsu Mizuki)
2歳で特発性脊髄障害による両下肢まひを発症。ウィスコンシン州立大学リーバーフォールズ校にてコミュニケーション学・国際学の学士号取得。現在、ダスキン愛の輪基金・障害者リーダー育成海外研修生として、ニューヨーク州シラキュース大学内にあるBurton Blatt Instituteで今年9月まで障害者雇用について研究中。
ウェブサイト moonrider7.com

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