- 陶芸家 グラハム 安芸子さん
- メニューアート・アーティスト ドズフィーさん
- 映像監督/シネマトグラファー アンドリュー・グーイさん
「死にもの狂いで食文化に貢献してきた人たちを、どうか忘れないでいてほしい」
映像監督/シネマトグラファー
アンドリュー・グーイさん
Andrew Gooi
■マレーシアのクアラルンプール出身。アリゾナ州でシビルエンジニアとして6年間勤務した後、映像監督へ転身。コマーシャルビデオ制作を本職にするかたわら、「FOOD TALKIES」の名義で、主に自身が住む街のシェフを題材にしたドキュメンタリー動画を撮る。 2017年3月よりシアトル在住。外食よりも自炊派で、得意料理はマレーシアン・チャイニーズ・フィッシュ。家族みんなで食事する時間が一番好き。
▶︎ウェブサイト:andrewgooi.com
▶︎動画サイト:vimeo.com/andrewgooi
懐石料理人、ビール醸造家、フレンチ料理のシェフなど、飲食に関わる人たちのドキュメンタリーフィルムを撮り続ける映像監督がいる。「FOOD TALKIES」の屋号で活躍するアンドリュー・グーイさんは、今年「料理界のアカデミー賞」と言われるジェームズ・ビアード賞の映像部門にノミネートされ、その才能を世に知らしめた。
食べ物の裏にある人生のストーリー
マレーシア出身の映像監督、アンドリュー・グーイさんが専門にするのは「食」のストーリーだ。その多くはシェフが料理を作る様子と、彼らの料理にかける思いが美しい映像で描かれる。各2分程度の短い動画で、オンラインで公開されている。
「テーマは何でも良かったのかもしれません。でも僕は食べ物の話を聞いている時が一番楽しいんです。食べ物の思い出を聞くと、その人の歴史が見えてきます」。アンドリューさんが映像で伝えるのは食そのものではなく、その裏にあるヒューマンストーリーだ。
彼の作品のひとつ『月餅(Mooncake: The Lost Art)』は、昔ながらの手作業で何十年間も月餅を作り続ける点心シェフを題材にしており、Facebookでの再生数は2万回を越えた。それは視聴者の共感を得たからだという。「僕は中国の食文化が強いマレーシアで育ったので、小さい頃から月餅を食べていました。同じようにアジア地域の人がこの動画を見たら、きっと懐かしいと思うでしょう」
祖母の料理を撮りたい、初めはそれだけだった
アンドリューさんが「FOOD TALKIES」の屋号で初めて動画を公開したのは、およそ1年前のこと。題材にしたのは彼自身のおばあちゃんだ。「子どもの頃、おばあちゃんが僕たち家族の食事を作ってくれました。僕の食べ物の思い出はほとんど彼女の料理なんです。一番のお気に入りは豚足ビネガースープ。マレーシアでは一般的な、すごくシンプルな家庭料理です。それを記録に残したくて、FOOD TALKIESをやろうと思ったんです」
アリゾナ州の大学でシビルエンジニアリングを専攻し、卒業後はエンジニアとして働いていたアンドリューさん。ある日小さなビデオカメラを買って、映像制作の勉強を始めた。本を読んで知識をつけ、映画のメイキングビデオを細かく分析しながら彼らの撮り方をまねしたという。「とにかく練習したくて、休日は必ず撮影に出かけました。数えきれないほどの動画を作り、気が付いたらそれが仕事になっていました」
撮影中は全力で対象に向き合う
彼の制作プロセスはユニークだ。台本や絵コンテは一切作らない。撮影前に相手をリサーチし、いくつかの質問を用意するのだそう。撮影対象とは当日初めて顔合わせをすることが多い。どんな映像が撮れるか予想できないだけに、現場では柔軟な対応が求められる。
「撮影中は全神経を集中させて、相手に向き合いますよ。カメラを回しながら、この映像をどんな構成でまとめようか頭をフル回転させています。状況によってカメラのアングルを変えたり、追加の質問をしたり。家に帰ったらすぐ編集です。思いついたままに動けるのは、全てを自分一人で行っているからですね」
アンドリューさんは、監督・撮影・動画編集を一人でこなす「シネマトグラファー」だ。最近制作した動画では、撮影にかかった時間は
わずか1時間、翌日には編集を済ませて公開したのだそう。シネマトグラファーだからできる、スピーディーな仕事だ。
優れたマルチタスクのスキルを持つアンドリューさんの元には、コマーシャルビデオ制作のオファーが絶えない。「FOOD TALKIESの動画では一切の報酬を受け取っていません。食のストーリーを追いかけるのは僕の情熱。コマーシャルの仕事で稼いだ分を、FOOD TALKIESに還元していています」
世界中に同じ志を持つ仲間を
世界中に同じ志を持つ仲間をアリゾナ州でエンジニアとして働いていた時、アンドリューさんはハイウェイを建設するチームにいた。「チームメンバーはそれぞれ専門的で複雑な業務をこなし、毎日睡眠不足になって、安全なハイウェイのために働き続けます。でも、ある日気が付きました。そのハイウェイの上を運転している人たちは、誰がその道路を造ったかなんて知らないんです」
それは食の世界でも同じことだと、アンドリューさんは言う。「例えばシアトルの日本食文化はとても発達していて、街の人は当たり前にそれを受け入れています。だけど忘れないでください。誰かがここにその文化を運んで、根付かせてくれたんです。それは街の歴史です。必死の思いで食文化に貢献してきた人たちを、僕は映像に残したい」
将来はFOOD TALKIESをNPO(非営利団体)に登録し、世界中の若い映像監督を育てていきたいとアンドリューさんは目を輝かせる。「食だけじゃない。世の中には文化と歴史を築く人たちがたくさんいますが、僕が撮影できる量には限界があります。だから僕と同じように活動する監督を増やして、一人でも多くの人にそれを知ってもらうんです」
今年シアトルに拠点を移したばかりのアンドリューさんは、これからシアトルのフードシーンにどんな影響を与えていくのだろうか。
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