シアトルを拠点に活躍している日本人は数多い。今回は、チャレンジの多いアメリカという土壌で自ら道を開拓し、より大きく活躍の場を広げているアーティスト4人をご紹介。
取材・文:越宮照代、山﨑悠、山本夕紀、石橋迪与 写真:越宮照代
- 現代モザイクアーティスト 森澤直子さん
- ジュエリーデザイナー 中村奈美子さん
- 明藤書道会 藤井良泰さん
- 照明アーティスト 木下有理さん
ジュエリーデザイナー 中村奈美子さん
少女時代は人形の服や小物を手作り
近年、ブライダルやファッションショーのシーンで注目を集めているジュエリーデザイナー、 中村奈美子さん。繊細でありながら豪華なジュエリーは、まるで宝石でできたレースのようだ。
「小さい頃から、小物を作るのが好きで、お人形に冠を乗せたり、服を着せたり。そういうのがすごく好きだったんですね」。人形の服や小物は全部自分で作り、どうしたら本格的な王冠が作れるのか、試行錯誤するのが大好きな子どもだったという。東京で服飾レースのデザイナーとして活躍するようになると、ランジェリーやインテリアデザイナーなどの要望に合わせてデザインイメージを掴み、その場でスケッチして見せる技術を身につけた。それは現在、大きく役立っている。当時、出張先で何度かパリやミラノの素材市に訪れる機会を得て、この時の体験から英語の必要性を感じ、改めて英語の勉強を始める契機となった。その後、アメリカ人との結婚を機に2001年シアトルに移住した。
ジュエリーデザイナーとして
ある日、自分で作ったネックレスを着けて通りを歩いていると若い女性に、 「そのネックレス素敵ね。どこに売ってるの?」と声をかけられた。その直後、バスの中で中年の男性から 「いいネックレスだね!」。さらに、信号待ちをしていて、おばあさんから 「あなたのネックレス、好きだわ」と立て続けにほめられた。1 日で起こったこの不思議な出来事と夫の後押しもあって、「ビジネスにしてみようと思ったんです」。ジュエリーブランドAbloom(後にNamiko Abloomに改名)の誕生だった。
フリーモントのブテックやランジェリー店に持ち込んで委託販売するところから始め、徐々に販売店を増やし、それぞれの店に合わせてカジュアルでシンプルなものからゴージャスなものまで作るようになっていった。
ルリー・ヤングとの出会い
大きな転機となったのは4年前、シアトルを拠点に活躍するブライダル・ファッションデザイナーのルリー・ヤングとの出会いだ。ルリー・ヤングは自分の名前のブランドを持ち、シアトルダウンタウンに直営店「Luly Yang Couture」を持つ。奈美子さんはだめでもともととジュエリーを持参した。するとすぐに「売れたので、ビジネスを始めましょう」という電話がかかる。それから才能を見込まれて、とんとん拍子にジュエリーやファッションショーの小物の作成なども引き受けるようになった。以来、他のデザイナーとのファッションコラボを手がけたり、ファッション関連雑誌へ作品が掲載されるなど、脚光を浴び始めた。
「私にとって、ファッションデザイナーとのコラボレーションはデザインの可能性に挑戦する斬新なクリエーションの場です。ジュエリーデザイナーとファションデザイナーはそれぞれ見方が違うので、その違いを発見するのが面白いですね」 と楽しそうに語る。今後はシアトルに限らず、ニューヨークやロサンゼルスのデザイナーやアーティストと、コラボレーションやビジネスの展開をしていきたいと考えている。
その人だけの特別なジュエリーを
夢でインスピレーションを得ることがあり、登場してきたジュエリーを書き留めておくこともあるそうだ。「そういう感覚は大事にしていきたいと思っています」。自然から得られるものを大切にしており、花や海からインスピレーションを受けることが多いという。ジュエリーづくりのモットーは、 「インスピレーション、インパクト、ポジテイブ」。「自然からインスピレーションを受け、エレガントでありながら着ける人の内面を最高に引き立てるインパクトのあるデザインを創り出す。そしてポジティブなイメージをデザインで表現する」という思いが込められている。
意外に知らない人が多いのだが、奈美子さんは今でも日常使いのオーダージュエリーを作っている。パイクプレイスマーケットに近いボビー・マデリン(Bobbiie Medlin 2006 1st Ave., Seattle )、ルリー・ヤングで商品を購入することもできるし、オンラインを通して直接オーダーすることもできる。カスタムオーダーの場合は、「その方の好きな色を聞いて、そこからお客様と一緒にデザインアイデアを膨らませながら、天然石を使ってその方に合うデザインをしていくんです。イメージの世界が現実の作品となってお客様の身で輝いて、似合っているのを見る瞬間が最高に嬉しい」と言う。もっと多くの人にオーダージュエリーの楽しさを知ってもらい、気軽にNamiko Abloomジュエリーを楽しんでもらいたいそうだ。
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藤井良泰さん