シアトルを拠点に活躍している日本人は数多い。今回は、チャレンジの多いアメリカという土壌で自ら道を開拓し、より大きく活躍の場を広げているアーティスト4人をご紹介。
取材・文:越宮照代、山﨑悠、山本夕紀、石橋迪与 写真:越宮照代
- 現代モザイクアーティスト 森澤直子さん
- ジュエリーデザイナー 中村奈美子さん
- 明藤書道会 藤井良泰さん
- 照明アーティスト 木下有理さん
明藤書道会 藤井良泰さん
ワシントン州レドモンドに本部を構え、 シアトル、ポートランド、ロサンゼルス、東京、九州などに約160人の会員を抱える明藤書道会は、日本四大書道展のひとつ、毎日書道展で多数の入賞者を出すなど、アメリカのみならず日本国内でも高い評価を得ている。同会の創設者で会長を務める藤井良泰さんは、日米両国に教室を構え、各地で展示会を開くなど、書家として精力的に活動している。
あなたには書道がある
書道を始めたのは小学校1年生の時。担任の先生に「字が汚い」と言われ、母親と2人で書道教室に通い始めたのが書道家人生の始まりだった。初めは教室に通うのが嫌だったそうだが、中学2年生の時から2年連続で県知事賞を受賞。「1番になってとても気持ちがよかったですね。誰が譲ってやるもんかと一層頑張りましたよ」と、書道を続ける励みになったという。
高校時代はボート部で練習漬けの毎日を過ごし、国体やインターハイに出場するほどの腕前に。しかし、その間も書の練習は欠かすことなく、作品は月に1度教室へ通っていた母親に托し、先生に添削してもらっていたそうだ。卒業後はボートでの大学進学を希望していたのだが練習中に腰を痛め、道が閉ざされてしまう。「ボートしかやってこなかったのに、これからどうしたらいいんだと悩んでいた時、母に『あなたには書道があるじゃない』と言われたんです」。その言葉を受け、有名書道家を多く輩出している大東文化大学への進学を決めた。
師匠との出会い、そしてレドモンドへ
大学で学ぶ傍ら、個人的に師事する書家を探した。数々の社中(書家が主宰する会)を見学して出会ったのが、明石春浦(しゅんぽ)先生だった。「それまで、古典を臨書(手本通り書き写すこと)しながら技術を学ぶという方法で勉強してきた私にとって、その場で漢詩を選んでは自由な書体で楽しそうに書かれる先生はまるで魔術師のようでした」と、弟子入りを決めた時を振り返る。
当時、明石先生はアメリカの大学で客室教員を務めていたことから、シアトル郊外レドモンドでの書道教室開校の話が持ち上がる。派遣講師として白羽の矢が立ったのが、大学を卒業し都内で高校教師を務めていた26歳の藤井さんだった。戸惑いもあったが、「3年経ったら日本に戻してやる」という師匠との約束にアメリカ行きを承諾。あっという間に準備が進み、1991年春、同じく書道家で結婚したばかりの妻、直子さんと共に渡米、明石USA書道教室での講師生活が始まった。
そろそろ帰国と思っていた矢先の1995年、明石先生が突然他界。師亡き後、 「たとえ帰国しても将来どうなるかわからない。それなら先生の意思を継いでアメリカで書家として活動していこう」と決意し、自身と師の名字から1文字ずつ取って命名した明藤書道会を設立した。
40文字に魅せられて
教室を開いたばかりの頃は生徒数も少なく、どうすれば書道に興味を持ってもらえるのか試行錯誤の日々だったという。同会の展示会や実演会では、新聞紙やティッシュペーパーを筆の代わりに使って書いたり、墨絵を披露したりと、まずは書道に関心を持ってもらうことから始まるが、それは初期の模索の中から生まれた工夫だった。
「大きな紙に墨を飛ばしながら大きな文字を書く、それだけが書道でないということを知ってもらいたかった」と語る藤井さんの書には、五言律詩(40文字の漢詩)を題材にした多字数作品が多い。「書いてあることは読めなくてもいいんです。文字の大きさや広がり、線の太さの違い、墨のかすれ具合、文の区切れの位置など、色々な要素が組み合わさり、文字同士がお互いに響き合って活字にはない豊かな表現を生み出しているということを感じてほしいですね」。書の美しさや魅力を丁寧に説明していくことで、アメリカ人にも墨の色や筆の動きの美しさが伝わるという。
やり直しのきかない緊張感
現在、明石USA書道教室には、年齢・国籍を問わず多くの生徒が通っており、「書道を、 精神を鍛えるマーシャル・アーツの1つとして捉えるアメリカ人が多くいらっしゃいます」。しかし、書道には、はっきりと勝ち負けがあるわけでもなく、上達しているのか、行き詰っているのかさえ分からない時もある。そんな時でも毎日の練習が欠かせない。師と仰がれる立場であっても、「1度失敗したらやり直しがきかないので、自分ができないことにイライラしたり我慢したりすることばかり。満足のいく作品なんて到底できないんです」。それでも、「なにより書が好き」と断言する。今では、文字の崩し方や作品の構成を瞬時に考えながら書いていく一発勝負のドキドキ感が楽しいそうだ。
アメリカで書家として活動し始めて25年。「これからは、古典で学んだ技術を基に、アメリカにいるからこそできる、自分らしい作品を書いていく時期だと思っています。アンテロープキャニオンやグランドキャニオンのような、自然の力を感じられる場所で汲んだ水で墨をすって書くなんてこともやってみたいですね」
Meito Shodo-Kai Calligraphy Exhibition
明藤書道会創設20周年を記念した作品展示会が2016年2月20日からの2日間、シアトルセンター・パヴィリオンで開催される。同会会員や明石USA 書道教室に通う生徒の作品が、一斉に展示される。
日時:2016 年2 月20 日(土)、21 日(日)
10am~
場所:シアトルセンター・パヴィリオンRoom B 305 Harrison St., Seattle, WA 98109
詳細:www.meitokai.org
☎ 425-869-0994(藤井直子)
次ページは、照明アーティスト
木下有理さん