鍼灸師・東洋医学療法士 中島敦子さん
取材・文:磯野 愛
家族、自身の病気を経て鍼治療と出合う
今から17年前、筋ジストロフィーを患う2人の息子たちへのより良い医療を求めて、家族でアメリカに移り住みました。アメリカではナーシング・アシスタントの資格を取得し、息子たちの介護に専念。そんな中、自分の介護の経験を生かして看護師になれば、同じような境遇でいろいろな病気と闘っている人たちのため、そして息子たちのため、さらに何かできるのではと思うようになりました。
やがて、ショアライン・コミュニティー・カレッジの看護学校に通うことを決意。しかし、長年の過労もあって、頸椎椎間板ヘルニアを発症してしまいました。何としても手術は避けたいと思っていたところに出合ったのが、鍼治療です。当時は過去の記憶から鍼に対する恐怖心もあったのですが、その効力に大変な驚きと感銘を受けました。鍼治療が痛みから救ってくれたのです。結局、看護学校には戻らず、鍼灸師の道を選ぶことにしました。
西洋医学の知識を持ち、東洋医学の道へ
鍼はいろいろな症状に効きます。慢性・急性問わず、首、肩、膝、腰など体の痛みはもとより、「不定愁訴」といって、病名のない病気、つまり西洋医学では説明のつかない体の不調に対しても、効果が期待できます。とにかく体がだるい、めまいや頭痛がするといった自律神経にまつわる症状などは典型的な例です。また便秘や胃腸の不調、不妊、生理不順、肥満といった体質改善を目的とした治療も行っています。
鍼は「経絡(けいらく)」と呼ばれる体の中にある気の通り道を刺激する治療法。滞ったり偏ったりしている気の流れをスムーズにして、体全体のバランスを整えることが目的です。調整する経絡は患者さんの症状、体質によって違うので、全てがオーダーメイドの治療。経絡やツボという存在は骨や筋肉、臓器のように目に見えるものではありません。しかし、私自身、西洋医学の知識を十分に学んだ上で、東洋医学の効力を身をもって体験しました。この2つは決して対立するものではなく、お互いが得意な分野で共存していくべきものだと考えています。
実際に国連のWHO(世界保健機関)でも東洋医学の医学的効力をはっきりと認めています。たとえば、先日来院した高校生の患者さんはスポーツのやり過ぎによってひどい痛みを抱えていました。レントゲン上では問題がなく、西洋医学式の理学療法で一定の改善は見られたものの、どうしても痛みが取れないという相談内容でした。それが、3回の鍼治療で完全に痛みが取れました。これは、西洋医学の分野である理学療法と、東洋医学の分野である鍼治療の相乗効果の現れだと考えています。
鍼が怖い・苦手でも「刺さない鍼」で鍼治療を
「体に鍼を刺す」と聞くと、どうしても怖い感じがしますよね。男性は余計に苦手な方が多いかもしれません。夫も当初は嫌がっていましたから(笑)。鍼が苦手・怖いといった方や、スポーツを頑張り過ぎて体に痛みを抱えてしまったお子さんなどには、日本式の「超旋刺(ちょうせし)」という「刺さない鍼」での治療も可能です。実際に鍼は刺さないのですが、鍼治療で使うのと同じ鍼を皮膚に当てて刺激するという方法です。
東洋医学は、こちらから患者さんに一方的に治療や薬を与えるのではなく、患者さんとチームで取り組んでいくもの。毎日通院できれば理想的ですが、費用面・時間面からそれは現実的ではありません。ですから、患者さんが自宅でも簡単にできる気功やストレッチ、食事方法なども鍼治療と併せて提案し、一緒に症状を改善していくことを目指しています。
心も体も疲れたときの駆け込み寺でありたい
PTSD(心的外傷後ストレス障害)やパニック障害など、心の痛みにも鍼は有効です。この治療院が、仕事や家族の介護、子育てによる日々のストレスを解放する場になればと願っています。体や心に痛みのある人や、ハンディキャップを抱えた人を助けたいという思いから、この仕事を選びました。日本には「手当て」という言葉があります。痛みのある部分に手を当て、さすることが、どんな治療や薬より効果を生むことがあるのです。体や心に不調を覚えたときには、どうぞお気軽にご連絡、ご来院ください。
中島敦子■1963年奈良県生まれ。青年海外協力隊員としてアフリカで活動後、動物病院で勤務。同じく獣医師 をしていた夫と結婚し、米国へ移住後は家族の介護をしながらワシントン州でナーシング・アシスタント、鍼灸師、 東洋医学療法士の資格を取得。趣味はガーデニングで、自宅の庭ではいろいろな種類の花や野菜を育てている。
中島はり指圧治療院
2223 112th Ave. NE., #201, Bellevue, WA 98004
診療時間:9am~6pm 休診:日木
☎360-488-6777 atsuko@nakajimaacutherapy.com
www.nakajimaacutherapy.com
次ページは、実際の患者さんのお話と体験談→