シアトル音楽界の大イベント、第 7 回「セレブレートアジア」が来る 3 月 1 日、ベナロヤホールで開催される。コンサートに先駆け、日本からの今年のゲストアーティストの一人で「和楽器の貴公子」の異名を取る尺八演奏家、藤原道山氏にインタビューした。取材・文:越宮照代
Q:10 歳の頃から尺八を始められたということですが、きっかけは何だったのですか?
もともと祖母がお箏の先生をしていたので、和楽器の音に親しんでいたこともあると思いますが、ある時、祖父の友人数人が尺八を習いたいということになって「じゃあついでにあなたもやってみたら」って誘われて(笑)。ところが、尺八は最初音が出なくて。それまでピアノ、箏、笛など他の楽器を弾いたことはありましたが、音が出ない楽器は始めてでした。それが非常に悔しくて 1 週間ほど悪戦苦闘した上で、やっと音らしきものが出た時にはすごく嬉しかったですね。音の出ない楽器に出会えたことが、逆にのめり込むきっかけになったのだと思います。
Q:尺八というと、サムライ映画の BGM に流れて来るといったイメージがあるんですが、実際には、道山さんの演奏される曲などを聴いていると実に多彩ですよね。映画『武士の一分』に使われた曲などは、透き通るような音色で心を洗われる思いがします。
尺八は人の声のようだなと思います。声は、言葉によって色々な声色を使うことができますね。自分で演奏するのもそうですが、尺八は歌っている、語っているというイメージがあります。これほど多彩な音が出る楽器は他にあまりないのではないでしょうか。多彩な音が出せるということは、いろいろな音楽に対して柔軟性を持っているということで、出会いが広がっていく楽器だなあ、と思いますね。
Q:古典からクラシック、ロック、ポピュラー、現代音楽までジャンルを超えて、コラボレーションであったり、ピアノ、チェロとユニットを組んだりと非常に幅広い活動をされています。新しいことにチャレンジするのがお好きなんですか?
はい、新しいものにはすごく興味があります。自分が持っていないものに出会った時、それに対して「これが尺八で可能なのか」と考えることが出発点です。「こんなこと出来ない」と思ってしまったらそれでおしまいですが「なんとかしてこの音楽と一緒にやってみたいな」、と思う気持ちがチャレンジなのだと思います。僕は子どもの頃からいろいろな音楽を聴いていましたが、身近な音楽の中からどんな音が尺八でできるか、と考えることが出発点でした。ですから音楽に限らず、例えば絵を描く人、踊りをされる人となどと一緒にパフォーマンスをする、ということもします。出会いがあるだけ可能性のある楽器だなと思いますね。
Q:中学生の頃から師事された人間国宝の山本邦山先生は、ジャズ奏者と共演したりして、邦楽器である尺八をジャンルを超えた領域に広められた方ですが、道山さんも、邦楽器の再普及の一翼を担うといった自負のようなものはお持ちなのでしょうか?
うーん、この楽器を知ってもらいたいという気持ちはもちろん強いですが、自負というよりは、自分が楽しいと思っている音楽をみんなに知ってもらいたい、一緒に楽しんでもらえたらいいな……と。自分が良いと思ったものは、人にも伝えたいという思いですね。
Q:確かに。世界最小のオーケストラと称して、マリンバ奏者の SINSKE とたった 2 人で演奏していらっしゃるのなど拝見していると、楽しさが伝わって来ますね。
そうですね。この最小の人数でこれだけの楽しいことができるということを、伝えていきたいなと思いますね。また今年は、僕がメジャーデビューして 15 周年になるので、東京で大きなコンサートを開く事を考えています。これからは日本だけでなく海外も視野に入れて、尺八を通して皆さんと楽しい音楽を作っていけたらな、と思っています。
Q:今回演奏される菅野祐悟さんの新作『琴と尺八と管弦楽のための協奏曲 Revive』について、お話しいただけませんか?
これは、新進気鋭の作曲家の菅野祐悟さんが東北の再生をテーマにして作られた曲で、非常にメロディックで分かりやすい作品です。昨年横浜のみなとみらいで世界プレミアとして箏の遠藤千晶さんと共演し、大変な反響をいただきました。オーケストラと箏、尺八との協奏曲というのは、今までほとんどなかったと思います。
Q:シアトルのお客様にメッセージをお願いします。
今回は 10 年ぶりのシアトルで、この和楽器の演奏ができることを非常に嬉しく思っております。これがご縁でまたシアトルでも演奏できたらと思っておりますので、皆さんぜひ聴きに来てください。
10 才より尺八を始め、人間国宝・山本邦山に師事。東京芸術大学大学院音楽研究科修了。2001 年CDデビュー。ウィーンにてレコーディングを行ったシュトイデ弦楽四重奏団との共演アルバム「FESTA」など多数発表。その他、映画・CM音楽への参加や、「ろくでなし啄木」(三谷幸喜作・演出)、「スーパー歌舞伎Ⅱ」(四代目市川猿之助)などの音楽も手がける。現在、東京芸術大学音楽学部邦楽科尺八専攻講師として後進の指導も積極的に行っている。NHK「にほんごであそぼ」にレギュラー出演中。http://www.dozan.jp Celebrate ASIA 家族で楽しむアジアの宴 3 月 1 日(日)3pm(プリコンサート開始)指揮者:キャロリン・クアンオーケストラ:シアトル交響楽団ゲストアーティスト:作曲家 菅野祐悟、尺八 藤原道山、箏 遠藤千晶 ほか場所:Benaroya Hall 200 University St., Seattle
www.celebrateasia.org
www.seattlesymphony.org