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宮坂醸造の若手蔵元が語る日本酒の未来


350年以上にわたり長野県諏訪市の山あいの地で日本酒を造り続ける宮坂醸造。主要ブランドの「真澄」は、アメリカでも流通しています。そんな老舗の跡継ぎである宮坂勝彦さんに、日本酒業界の展望について熱く語ってもらいました。

宮坂勝彦さん宮坂醸造酒蔵内にて写真本人提供

日本に現存する酒蔵は1,400を超えると言われ、中でも古い歴史を持つ宮坂醸造。先祖は地方土着の侍の一族で、1662年に酒屋の商売を始めたのが始まりだ。「地元にある諏訪大社にお酒をお納めする仕事をずっとしていました。『真澄』の名前は、江戸中期頃に、諏訪大社に代々伝わる『真澄の鏡』という宝物にちなんでいただいたものなんです」

名前のイメージ通りに、透明感と深みのある味わいを目指して「真澄」を造っていると話す宮坂さん。宮坂醸造のある諏訪地域の極上の水質が、その実現を可能にしている。「7号酵母」もまた、宮坂醸造の歴史であり、味を構成するとても大事な要素だ。「日本酒の原料は米と水と酵母。日本で使用されている酵母は、見つかった順に1号、2号とナンバリングされていて、今から約70年前にうちの蔵で見つかったのが、7号酵母です。現在19号までありますが、この7号が最も多く使われています。すごく支持されている酵母なんです」

宮坂さんの捉えるイメージでは、使う水の種類で日本酒の「性別」が決まる。硬水だと男っぽくてがっしりとしたお酒、軟水だと女っぽい柔らかいお酒になるそう。また、小柄なのか大柄なのか「体格」を決めるのが、米の種類。そして酵母は「ファッション」を決めるのだと説明する。「たとえば、18号を使うと、すごく華やかな香りが出ます。ラメ入りのドレスみたいな感じ。それに比べると、7号は普段着のようなお酒を造る酵母なんです。白シャツとかデニムとか、カジュアルな装いです」。その白シャツもまた、使い手によって単なる安物にもなるし、仕立ての良い上質な服にもなり得る、と宮坂さんは続ける。「7号の持つ、毎日楽しめて、しかも努力次第で良いものにできるという特徴に魅力を感じるんです」

大学卒業後、伊勢丹(現・三越伊勢丹ホールディングス)、ロンドンの日本酒専門卸売商社勤務を経て、2013年に宮坂醸造に戻った宮坂さん。「発祥の蔵にもかかわらず、帰国当時の7号の使用比率は『真澄』全体の4割ほどでした。高価な商品には華やかな味わいの18号、などと使い分けていたんです。でも僕は、全部7号で造るべきだと思っています。派手ではない、 シンプルで穏やかな味を、既存の発想や製法にとらわれず、新しいやり方で造っていきたい」。今では7号の使用比率は8割程度になっているという。

「少し前までの日本酒業界は、売れるものをいかに効率的に造るかというアプローチばかりで、酒蔵が没個性化していた。どれを飲んでもおいしいけれど、それでは根強いファンが付かない。これからの時代は、自分たちが造るべきものを知り、そこに突き進むアプローチであるべき」。万人向けの商品を造るのではなく、作品性を伴うことで自分たちにしかできないブラ ンドを生み出す方向に変わってきているのが今の時代だと訴える宮坂さん。宮坂醸造は今、徹底的に7号酵母を使用するという、自らのルーツに立ち返る道へと舵を切ったところだ。

◼️宮坂醸造株式会社
長野県諏訪市元町1−16
☎︎81-266-52-6161
www.masumi.co.jp


シアトルで日本酒ペアリングを楽しむコツ

今や「ペアリング」はワインだけでなく、さまざまなドリンクと料理 をマッチングさせるのがトレンド。中でも注目されている日本酒ペアリングについて、宮坂さんに基本を教えてもらいました。

酒蔵の立地を確認

海のない地方で造られた日本酒は、肉や野菜をベースにしたものと良く合います。逆に、もっと海に近い場合は、やはりシーフードに合わせるとおいしいですね。シアトル名産のシーフードに合わせるなら、特に海側で造られた日本酒を選ぶと良いと思います。シアトルはまた、キノコなど山の恵みも豊富ですよね。そうしたものを食べるときには、山側や内陸の日本酒を選ぶと、和食でもアメリカンでも調理法を問わずに楽しめます。

精米歩合をチェック

大吟醸や純米吟醸などの呼び名は精米歩合で決まります。米を磨けば磨くほど、外側の雑味になる要素が取れて、味わいに透明感と上品さが出てきます。澄んだ味わいの料理、たとえばチーズや白身魚などには、精米歩合の高い、しっかりと磨いた透明感と軽みのある日本酒を選びましょう。リッチな肉料理には、やはりリッチな味わいの、あまり磨いていない日本酒を合わせるとおいしいですよ。

生酒と新鮮な魚介で春のペアリング

春に出る生酒は加熱処理を行っていないため、甘みたっぷりのフレッシュな味わいです。シアトルの新鮮な生ガキと合わせるのにぴったり。カルパッチョなどサーモンの刺身を使った料理とも相 性抜群です。サーモンは生で食べるのか火を入れて食べるのか、焼くにしてもシンプルに塩だけなのかハーブとレモンで食べるのか、さらにバターを使うのかで、合う日本酒も変わってきます。好みのペアリングを探してみてください。

 

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加藤 瞳
東京都出身。早稲田大学第一文学部卒。ニューヨーク市立大学シネマ&メディア・スタディーズ修士。2011年、元バリスタの経歴が縁でシアトルへ。北米報知社編集部員を経て、現在はフリーランスライターとして活動中。シアトルからフェリー圏内に在住。特技は編み物と社交ダンス。服と写真、コーヒー、本が好き。