ひと夏を東京で過ごしたアメリカ人一家の体験が生き生きと描かれた食紀行『米国人一家、おいしい東京を食べ尽くす』は、すでに5刷を重ねる人気本。 ハリウッドで映画化の構想も進んでいるという本書の著者、マシュー・アムスター=バートンさんはシアトル在住のフードライターだ。今秋、再訪日を計画中のマシューさんに話を聞いた。
取材・文:吉田 麻葉
『米国人一家、おいしい東京を食べ尽くす』は著者が、娘と妻と東京・中野区の1DKアパートに一ヵ月暮らした経験が書かれている。有名店や高級店を紹 介するグルメ本とは異なり、描かれているのは商店街の天ぷら屋や立ち食いそば屋、チェーンのドーナツ店など日本人の日常生活に馴染みのあるお店ばか り。日本人にとっては当たり前のサービスや食文化に感動する親子の姿に、「忘れていた日本の魅力を思い出させてくれた」という読者の反響も多いそう だ。
「前から、『いつか日本に行きたいね』という話を娘とよくしていたんです。なぜ他の国ではなくあえて日本だったのか、私にもよく分かりません (笑)」
念願かない2010年、娘の学校の春休みを利用して6日間、2人で日本を訪れた時には「日本を我が家のように感じた」と言う。2年後には、妻も含めた一 家3人で2度目の来日を果たした。当初は日本食の本を書くことなどまったく頭になかった。
「中野に暮らし始めてから、アメリカには日本の日常生活に関する本がないことに気付きました。来日前に日本に関する本は沢山読みましたが、商店街の 魅力や庶民の暮らしについて書かれたものはなかったので、それで自分で書こうと思ったんです」
日本に滞在中、毎朝2時間スターバックスで筆を進め、帰国後にアメリカで出版。それが日本の代理店の目にとまり、日本語翻訳版の出版が実現したの だ。
もともとはアメリカ人の読者を想定して出版された書籍だが、意外にも日本語版の売り上げも好調で、日本の読者からたくさんのメッセージを受け取った そうだ。
「私たち外国人親子が日本のアパートや商店街で、悪戦苦闘しながら暮らす様子を楽しんだ、と言う方が多いですね。外国人である私の視点を通して日本 の魅力を再発見した、という意見はとても光栄に思います」
一家はこの秋、再び日本を訪問する。2カ月かけて、東京・京都・大阪・広島・福岡・北海道と、日本の各地を訪れる予定。現在マシューさんは、日本語を勉強中だ。日本語で意思疎通ができれば、次回の旅はさらに面白い体験になるかもしれない。次の日本滞在体験も出版予定だそうで、どんな日本食が登 場するのか今から気になるところだ。
プロフィール:マシュー・アムスター=バートン
シアトル在住のフリーランスフードライター。娘と妻と3人で東京・中野に滞在した体験を描いた『米国人一家、おいしい東京を食べ尽くす』(英語版は 『Pretty Good Number One: An American Family Eats Tokyo』)を出版。