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株式会社ソラコム共同創業者 安川健太さん

世界のIoTプラットフォームを目指して 株式会社ソラコム共同創業者 安川健太さん

2015年の創業以来、IoT向け通信サービスを世界中で提供している株式会社ソラコム。急成長するスタートアップとして注目される同社の北米拠点オフィスが、ベルビューに所在しています。共同創業者のひとりで、最高技術責任者(CTO)兼北米代表を務める安川健太さんに話を聞きました。

取材・文:室橋美佐 写真:株式会社ソラコム、本人提供

安川健太 1980年生まれ。2008年に東京工業大学大学院理工学研究科で工学博士を取得。エリクソンの研究部門で携帯通信とIoTに関連する研究開発に携わった後、2012年からアマゾンウェブサービス(AWS)のソリューション・アーキテクトおよびソフトウェアエンジニアとして勤務。2015年から現職。妻、息子3人、猫1匹、犬1匹とカークランドに住む。

中小企業も導入しやすい高セキュリティーのIoT携帯通信サービス

昨今では、IoT(Internet of Things)と呼ばれるように、さまざまなモノをインターネットにつなげることで生活を便利にしたり豊かにしたりという動きが進んでいます。IoTを広げる際に重要になってくるのが、Wi-Fiのない環境でも、携帯通信でインターネットにつなげられるようにすることです。ソラコムは、携帯通信を使ったIoT向け通信サービスを提供しています。

北米オフィスはベルビューのリンカーンスクエア内に写真はミーティングオウルという360度方向AIカメラを使ってスタッフの誕生会をした時の様子

たとえば、シアトルにはペブルビー(Pebblebee)という、キーホルダーやペットの首輪などに付ける小さな端末を使って紛失物を検索できるサービスを提供する会社があります。Bluetoothを使ってスマートフォンとつながる範囲で探せる商品はこれまでもありましたが、ペブルビーはソラコム社のサービスを使うことで、より広い範囲での探索を実現しています。

弊社の通信サービスを動かしている根幹のシステムは、全てアマゾンが提供するクラウド・サービスであるAWS上にあります。セキュリティーの高い環境での携帯通信のシステムをクラウド上で動かしているという点がとてもユニークと言えます。携帯通信を使ったIoT通信サービスは、セキュリティーを保つために専用サーバーなど大規模なハードウェアを使ってネットワークのシステムを物理的に構築するもので、利用するには多額の費用がかかっていました。ソラコム社の通信サービスは、例えて言えば、専用サーバーを物理的に構築して作るようなシステムをクラウド上に仮想的に作っているので、1回線から少ない初期コストで利用できます。そのため、スタートアップ企業などが小規模からIoT技術を導入できます。

スタートアップまでの道のり

子どもの頃は、日本と世界をつなぐ仕事がしたいと漠然と思っていました。大学院時代にニューヨークに10カ月間滞在して、いろいろな国籍の人が集まって仕事をするのは楽しいことだと感じました。就職してからも、何らかの形で日本と世界とをつなぐ役割を目指してきました。携帯機器メーカー勤務を経て、AWSのソリューション・アーキテクトとなり、その時の上司が、一緒にソラコムを創業した玉川 憲(ソラコム代表取締役社長)です。玉川はAWSジャパンの立ち上げに携わり、日本でクラウド・サービスを広げるためのエバンジェリストをしていました。

創業のきっかけは、ふたりでシアトル出張した夜にバーで交わした会話です。「AWSのクラウド・サービスがまだ取り込めていない分野は?」という玉川からの問いに、私は携帯通信のデータセンター設備を挙げました。「ソフトウェア化してクラウド上で動かせるはず」と説明すると、翌朝にはそのアイデアを玉川がプレスリリースとしてまとめてきました。余談ですが、アマゾンでは何か新しいビジネスを提案する際にプレスリリースとして企画提出する文化があります。「クラウド上で動く携帯通信でありとあらゆるモノをネットワークにつないで、世界をより良くする」というフレーズに、「これが自分のやりたいことだ」と直感しました。

スタートアップはリスクも伴いますが、私はやらないリスクのほうが大きいと考えていました。創業当初は人事や法務など専門以外のことも自分たちでこなさなくてはならずに苦労しましたが、会社運営の全体を知る機会になりました。また、「アマゾンです」と社名を出せば簡単に会って話を進められていたのが、「新しく立ち上げたこういう会社で、こういう背景で」と説明をして、話を聞いてもらえるようになるまで一定のハードルがありました。

最高技術責任者としてアメリカ代表を務める

私が代表を務める開発チームは日本が拠点なので、日本にいるほうが便利なこともあります。それでも、IoTやクラウド系ビジネスの中心はアメリカ西海岸。ここで生まれて世界へ広がる技術にソラコムのサービスを使って欲しい、先端技術からのフィードバックを受けてソラコムの技術も育てたいという理由で、私がここにいる意味は大きいと感じています。クライアントの多くは技術者が創業者というケースが多いので、そうした会社へ売り込みに行く際には、技術責任者が直接話せることは有利に働きます。

朝は欧州スタッフと、前日の動きや当日の予定など簡単に状況共有します。昼間は現地のマーケティングや営業、ソリューション・アーキテクトのスタッフと動きます。弊社のサービスはいろいろな要素を組み合わせてシステムをカスタマイズできるようになっていて、クライアントの要望を聞き取りながらその設計を手伝うのがソリューション・アーキテクトです。私は、開発者として彼らをサポートしつつ、日本が朝になると、開発チームと情報共有します。アメリカ側の運用で何か問題があれば日本の開発チームへ伝えて、翌朝に問題が解決されているという具合に、時差を有効に使える場面もあります。実は、開発チームも日本だけではなくオーストラリアやモーリシャスに住むスタッフがおり、アメリカ側でもシカゴやサンフランシスコに住んでいるスタッフがいます。ツールを使いこなすことで、誰がどこにいても一緒に仕事ができるという社風が創業当時からあります。

世界中で認知されるプラットフォームにしたい

ソラコムのサービスは業界問わず、モノをネットワークにつなげたいという全ての会社に使ってもらえるものなので、いろいろな生活の場面で使ってもらえるようになればと願っています。コロナ禍で新しい生活様式にシフトしている今だからこそ、弊社の技術で貢献できることも多いはずです。たとえば、レストランのデリバリー・サービスで店舗や配達員をネットワークでつないで効率化するようなプロジェクトがあれば絡んでみたいですね。医療関係では、医師のリモート診断や患者のモニタリングをサポートするシステムで具体的なプロジェクトが動いています。

2017年に日本からシリコンバレーへ2018年末にシアトルへ家族で移住子どもたちは渡米当初は大変そうでしたが今は個性を大事にするアメリカのカルチャーが気に入っているようですアメリカで大学に通っていた経験がある妻とふたりでいつかアメリカで生活したいと願っていたとのこと

日本発のソラコムの技術を世界へ広げ、いろいろな人に喜んでもらうという夢が少しずつ形になってきました。これからもこの流れを加速して、ソラコムのサービスを世界中で認知されるプラットフォームとして成長させていきたいです。

今年の夏は家族そろってのBBQや密を避けてのビーチめぐりを楽しんだ