シアトルの知恵ノート
知っておくと暮らしが豊かになるヒントを、シアトルで活躍するさまざまな専門家の方に聞きます。
50歳以上の男性は前立腺がんに注意
近年、50歳以上の男性に好発する前立腺がんが増加傾向にあり、日本人男性におけるがんの罹患率は1位。前立腺がんの基礎知識から最新の治療法まで、研究動向、早期発見の重要性を含め、詳しく解説します。
フレッド・ハッチンソンがんセンター
渡辺隆太■愛媛県生まれ。愛媛大学医学部医学科を卒業し、県内で泌尿器科医として診療に従事する。専門は前立腺がん、腫瘍遺伝学、ロボット手術。2020年、医学博士取得後、フレッド・ハッチンソンがんセンター、ピーター・ネルソン研究室へ招聘される。受賞経験は日本泌尿器腫瘍学会学術奨励賞、ヤングウロロジストリサーチコンテスト最優秀賞、日本泌尿器科学会ヤングリサーチアワード、前立腺研究財団奨励賞など。
Fred Hutchinson Cancer Center
1100 Eastlake Ave., E2-112, Seattle, WA 98109
☎206-667-2447、rwatanab@fredhutch.org
https://research.fredhutch.org/peternelson/en.htm
意外に身近ながん
前立腺は男性だけにある臓器。膀胱の下に尿道を囲む形で位置します。クルミほどの大きさで、精液生成にも関与しています。
前立腺がんは初期段階での症状はほとんどないものの、進行すると血尿や尿の排出困難などを引き起こします。骨や他の臓器に転移した場合、激しく痛むことも。西洋人、特に白人や黒人の間では非常に一般的ながんであり、米国における男性のがん罹患率で1位、死亡率でも2位となっています。最近では、日本でも前立腺がん患者は増加しており、2016年以降、男性のがんで罹患率1位に。食生活の欧米化がその一因とされています。
前立腺がんの発生に最も関係すると言われるのが、脂肪の摂取量。中でも動物性脂肪、特に赤身肉や乳製品が関連しているとの指摘があります。間 寛平さんなど、前立腺がんと闘う著名人の方々の声も聞かれます。
前立腺がん治療の種類
前立腺にがんが見つかった場合、手術や放射線治療が根治のための主な選択肢です。今は手術支援ロボット「ダビンチ」による手術が主流で、外科医がロボットのアームを繊細に操作し、合併症のリスクを減らせるようになりました。
がんが転移してしまっているケースでは、ホルモン療法を中心とした薬物治療を受けます。前立腺がんは、男性ホルモンの作用をブロックすることで進行を抑えられます。ある種の抗がん剤も使用でき、より強力なホルモン治療薬も開発されています。また、乳がん同様、BRCA遺伝子異常のある前立腺がん患者には有効な薬剤の使用や遺伝子検査が積極的に勧められていて、選択肢が増えてきました。
がん克服を目指す取り組み
私たちの研究室では、前立腺がんの原因遺伝子を追究し、新しい治療を開発する研究を行っています。特に、ホルモン療法が全く効かない前立腺がんの亜型、神経内分泌前立腺がんの研究が盛ん。転移性前立腺がんにおける高頻度のBRCA遺伝子異常を世界で初めて確認したのも、この研究室です。
前立腺がんの人種差に着目した研究も続けられています。日本人は、前立腺がん罹患率が増えてきている一方で、ホルモン療法の有効性が非常に高く、予後が良いとされ、日本人が生まれながらに持つ遺伝性要因が関与する可能性も考えられます。私も研究室唯一の日本人として、独自の切り口で研究成果を出せるよう努めているところです。
早期発見が肝要
前立腺がんは初期に症状が出ないため、発見時には全身に転移していることも少なくありません。症状が出るまでに、一刻も早く見つけることが大切です。
幸い、前立腺がんは、PSA(前立腺特異抗原)という非常に優秀な腫瘍マーカーで検査できます。血液を調べるだけで、前立腺がんの有無は大方当たりを付けられ、数値が高ければ、MRI、前立腺生検(組織検査)といった精密検査へ進みます。
定期健診を受ける際にはかかりつけ医に検査を申し出てください。50歳以上の男性は定期的な検査が推奨されています。前立腺がん以外にも、泌尿器科領域で気がかりなことがあれば、ぜひお問い合わせください。