Home アメリカ生活 シアトルの知恵ノート 在外ネット投票を考える〜異...

在外ネット投票を考える〜異国で暮らす日本人のための選挙制度を〜

シアトルの知恵ノート

知っておくと暮らしが豊かになるヒントを、シアトルで活躍するさまざまな専門家の方に聞きます。

在外ネット投票を考える 〜異国で暮らす日本人のための選挙制度を〜

海外在住の有権者が日本の国政選挙に投票できる在外選挙制度。新型コロナウイルスによるパンデミックの影響で問題が表面化していると訴える動きがあります。「在外ネット投票署名活動」もそのひとつです。

コロナ下での在外投票、世界各地で混乱を招いた理由

2021年衆院選(第49回衆議院議員総選挙)では、衆院解散から投開票日まで17日という戦後最短の選挙期間であったこと、またコロナ下で郵便事情が世界的に悪化していることなどから、在外投票ができない、郵便投票が間に合わないといったトラブルが相次ぎました。

イタリアに住む私の場合、同年9月上旬に今回の衆院選に関し、日本大使館から感染対策として在外公館(日本大使館、総領事館、領事事務所など)へ出向いての投票を避け、郵便投票をするよう推奨を受けたことから、初めて郵便投票を準備。しかし、このネット社会の現代で、投票用紙の請求・交付・送付に国際郵便1往復半というアナログな仕組みを採用していることにまず驚きました。しかも途中で郵便投票では期限内に届かないと判明し、断念することに。結局、往復8時間をかけ、1泊して大使館へ投票に行きました。その費用はなんと総額約2万6,000円。予想外の出費のうえ、体力的にも疲弊し、「こんなことを何度も続けられない!」と実感しました。

同時に、世界各地で多くの在外邦人が似たような経験をしたことを知りました。たとえば、ラオスでは在外公館投票が実施されず、港区や葛飾区などの選管による郵便投票の投票用紙・在外選挙人証送付の遅れにより在外投票できなかったという話も。また、高額の宅配便を利用して郵便投票をしたものの選管が土日休みで受け取らない、DHLで送付したが宛て名がアルファベット表記のために市役所が投票用紙受け取りを拒否する、といった事例もあったそうです。ブラジルやイタリアでは一時的に国際郵便が止まり、郵便投票できなかったケースも耳にしました。

そもそも、在外選挙人名簿登録には2、3カ月かかります。在外有権者の推定数100万人に対し、在外選挙人登録者数は約10万人、そしてその中で在外投票できたのはたったの約2万人。つまり、在外有権者の2%程度しか日本国憲法第15条の選挙権を行使できていない不平等な状態が長年放置されているのです。

在外ネット投票実現に向けて

在外ネット投票署名活動は、アメリカ在住の子田稚子さん、ドイツ在住のショイマン由美子さん、そして私、田上明日香の3名が発起人となり始めた署名運動です。外務省と総務省、デジタル庁宛てに在外ネット投票の早期導入を求めています。具体的なスケジュールは、以下となります。

(1) 2022年夏の参院選までに在外ネット投票の実証実験を行う

(2) 2025年衆院選で在外ネット投票の確実な運用を実現

昨年末までに1万5,000もの署名が集まり、今もその数は増え続けています。現在、日本政府と署名提出の日程調整を行っているところです。

時間も労力も必要な紙ベースの郵便投票の例

私たちは強い信念を持って、現在のアナログな在外投票制度を変えたいと考えています。在外ネット投票を、途上国や地方の田舎に住んでいても、身体が不自由でも、妊娠中や育児中、高齢であっても、簡単に無料で在外投票ができるひとつの選択肢とし、現行の在外投票制度と併せて、在外有権者が在外投票をしやすくなる形が望ましいでしょう。在外ネット投票は、現在はしたくてもできない状況にある在外邦人を救う可能性を多分に秘めています。平等な投票権のためにこれからも力を合わせ、署名活動と情報のシェアを進めていきます。

田上明日香■翻訳家。イタリア在住。2021年の衆院選で在外投票の現状に疑問を抱き、Twitterで活発に発信を始める。同年、他国に住む賛同者2名と共に、「在外ネット投票署名活動」を立ち上げる。2025年参院選の在外投票へのネット投票導入などを求め、オンライン上で署名活動を始める。

在外ネット投票署名活動
Overseas Online Voting Action

onlinevoting22@gmail.com

https://twitter.com/OnlineVoting22