子どもとティーンのこころ育て
アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。
第32回 不安な気持ちを減らす方法 ~認知の歪みに気付こう~
新型コロナウイルスの猛威は、病気や健康に対する概念だけではなく、これまでの社会のあり方や価値観、私たちの生き方までをも大きく変えようとしています。こうした時代の転換期だからこそ、沸き起こる不安感を減らして、毎日を少しでも楽しく生きる術を身に付けたいですね。
私たちはなぜ不安を感じるのでしょうか。不安とは、未来の出来事や他人の気持ちなど、自分ではわからない未知の事柄に対して否定的に考えることから生まれます。否定的な考えに固執する傾向が強ければ強いほど不安感も強くなります。こうした思考パターンは「認知の歪み」と言われ、遺伝的な気質に加えて、家族や社会環境から影響を受けて作られます。ですが、自分ではなかなか気付きにくいもの。たとえば、ピンク色のサングラスをかけて世界を見ると、世界がピンク色に見えてしまうように、私たちは思考というフィルターを通して世界を解釈しているのです。心配事の9割は実際に起こらないとも言われています。不安感を減らすには、まずは自分の認知の歪みを知り、その思いぐせを正していくことが大切です。
認知の歪みで典型的なのが「〜すべき思考」です。これは、期待されている言動を実行しなくてはいけないという考え方で、それができない場合に自分や他人を責めたり、いら立ったりします。自分も他人も批判的に見る傾向が強く、「きちんと」などの言葉をよく使います。たとえば、子どもに「もっときちんとしなくちゃ」、「ちゃんと宿題したの?」などと言っていることに気付いたら、できたことに焦点を当て、「これだけできれば十分」、「宿題はできたかな」など、言い方を変えるだけでも不安や焦燥感が軽減します。
次に「マイナス化思考」が挙げられます。これは、良いことが何度あっても素直に受け止められず、悪いことがひとつでもあると「やっぱりダメなんだ」と思い込んでしまう考え方です。褒められても素直に喜ぶことができず、相手の真意を疑ってしまいます。こうした傾向のある人は、不信感が強く、他人に本音を言えないので、ストレスも溜まりがち。自分の本音をノートに書く、褒められたら素直に「ありがとう」と言うなど、少しずつ自分を受け入れていくといいでしょう。
不安感を完全に消し去ることはできませんが、不安を感じたら「人生は筋書き通りにいかないから面白い」、「これは思いぐせに気付く大きなチャンス!」と捉えるようにし、不安な気持ちを減らすのに効果的な以下の3つのステップも試してみてください。
1) 深呼吸し、自分の中に優しいお母さんや先生のような存在がいると想像して、不安な気持ちを聞いてあげる。最悪の事態を想像して、その時の気持ちを感じてみる。たとえば「経済的に苦しくなって家を手放す」、「病気になり自分や家族が死ぬ」と考えると、不安でどうしていいかわからなくなるなど。
2) それが起きる確率は何%か、そうならないよう今できることは何か、それが起きた時に自分はどう対処するか、それが起きたことによる学びは何かをノートに書き出し、今できることを実行する。
3) 自分にとって最高の状態は何かを想像し、それが実現した時どんな気持ちになるかを感じてみる。その状態に近付くために今できることは何かをノートに書き出し、実行する。
コツは、不安な気持ちを否定せずに「そうだよね、不安だよね」と認めてあげてから、自分に何ができるかを客観的に考えること。そうすると、自分でも状況を改善する方法が必ずあることに気付きます。このステップを繰り返すことで、認知の歪みも少しずつ修正され、次第に自己コントロール感、自己肯定感も高まります。他人の言動に過度にフォーカスして嫌な気持ちになることも減るでしょう。不安を感じるのを避けると、逆に不安感はどんどん募っていき、ストレスや緊張から免疫機能や自律神経を狂わせて病気にかかりやすくなります。個人レベルの話だけではなく、国家レベルでも不安感は分断や争いをもたらします。不安感を減らして、毎日を少しでも楽しく生きることで、社会全体に信頼と協力の輪を広げていけるといいですね。