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反抗的な子〜子どもとティーンのこころ育て

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

反抗的な子

「魔の2歳児」とも言われるイヤイヤ期。自我が芽生えた子どもが親に反抗し始め、バトルが始まる時期ですね。外出先でイヤイヤされて困り果てることも。けれど、こうした反抗は成長の証でもあり、大抵は3、4歳になる頃に落ち着きます。しかし、中には度を越すほど親に反抗して暴れたり、お友だちに乱暴をしたりと問題行動が続く子もいます。こうした子は、反抗挑戦性障害(ODD:Oppositional Defiant Disorder)に該当するかもしれません。

ODDを発症している子どもは、単に頑固で気難しいといったレベルではなく、半年以上ほぼ毎日のように癇癪を起こして暴れ回り、親や先生に反抗して物を壊したりルールに従わなかったりします。問題行動の起こる頻度や度合いが、その子の年齢や性別、文化的な基準と照らし合わせて明らかに逸脱しており、特定の人に対して強い恨みを抱き、執念深く攻撃したことが過去6カ月間に2回以上あるような場合、かかりつけ医や専門機関に早急に相談することをおすすめします。

典型的なケースを紹介しましょう。プリスクールや小学校低学年の頃から友だちとしょっちゅうけんかをして、先生から怒られると逆ギレや暴言、暴力も。親は子どもをコントロールしようと厳しくしつけますが効果はゼロ。周りからは問題児やいじめっ子としてレッテルを貼られ、親や先生たちの手に負えなくなって相談に来るというのがよくあるパターンです。発症が遅い子もいますが、遅くとも中学生までに兆候が表れます。子どもと話してみると、問題は全部、親や先生、友だちのせいで自分は被害者と感じている子が多いです。

アメリカ家庭医学会(1)によると、ODDの発症率は国や文化により大きく異なり、推定1〜16%と言われています。アメリカでは平均10.2%で、男性が11.2%と、女性の9.2%より若干多めです(2)。ODDは、遺伝的な要因と環境的な要因が合わさって発症するとされており、自閉症やADHD(注意欠陥・多動性障害)など発達障害の二次的な障害としても広く知られています。

ADHDの症状自体に「反抗的態度」はありませんが、衝動性が反抗的だと誤解を招き、叱責されやすく、否定的なコミュニケーションの仕方を学びやすいと言われています。家でも学校でも怒られっ放しだと、大人を敵と思い込み、自己否定して自暴自棄になるのは当たり前。ADHDの子どもの60%近くがODDを発症するという調査(3)もあるので、早めの療育と必要に応じた治療薬の投与が不可欠です。

さらに、ODDの子どもの3分の1が、より重篤な行為障害(CD:Conduct Disorder)を発症すると言われています。CDを発症した子どもは、家出、破壊行為、人や動物への攻撃、窃盗や万引きなどの反社会的な違法行為を繰り返すなど、社会規範から大きく逸脱します。少年拘置所に収容された10〜19歳の若者を調べた調査では、男子の62%、女子の59%がCDと診断されたという結果が出ています(4)。ADHDとODDの両方を発症している子どもはCDになりやすいほか、不安障害やうつ病も発症しやすいため、特に注意が必要です。(3)

なお、CDの子どものほとんどは改善しますが、大人になってから3分の1はさらに重篤な障害である反社会性パーソナリティー障害(ASPD)へと移行します。俗に「サイコパス」と呼ばれる人たちで、良心の呵責を全く感じないまま自分の利益のために他人の権利を侵害し、嘘や違法行為、衝動に任せての暴力沙汰や危険行為を繰り返すのが特徴です。

ASPDの効果的な治療法は残念ながらまだ確立されていないため、その治療は極めて困難です。ODDからCDへ、そしてCDからASPDへと悪化させないためにも、1日も早く専門機関に問い合わせて適切な治療を受けることが大切です。効果的な療法としては、子どもの感情コントロール力と問題解決スキルを高める認知行動療法、子どもの問題行動を減らすペアレント・マネジメント療法などが挙げられます(1)。ひとりで抱え込まずに周囲の理解と支援を仰ぎ、子どもの目線に立って少しでも生活が楽になる方法を作り上げていくようにしましょう。


*同記事は、ノースウェスト大学院で臨床心理学を専攻し、シアトル地域の大手セラピーエージェンシーで5年間働いたのちに独立し、ライフフル・カウンセリングで米ワシントン州認定メンタルヘルスカウンセラー(認定ID:LH60996161)としてセラピーを行う長野弘子さんが、学術データや経験をもとに執筆しているものです。詳しくは、ライフフル・カウンセリングなど専門家へご相談ください。

出典

1)アメリカ家庭医学会:https://www.aafp.org/afp/2016/0401/p586.html

2https://projects.iq.harvard.edu/files/nocklab/files/nock_2007_lifetimeprev_corr_persistence_dsm-iv_odd_ncs_jcpp.pdf

3https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5610221/

4https://www.jwatch.org/na50892/2020/02/14/prevalence-psychiatric-diagnoses-adolescent-legal



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長野 弘子
ワシントン州認定メンタルヘルス・カウンセラー(認定ID:LH60996161)。ニューヨークと東京をベースに、ジャーナリストとして多数の記事を寄稿。東日本大震災をきっかけに2011年にシアトルへ移住し、災害や事故などでトラウマを抱える人々をサポートするためノースウエスト大学院で臨床心理学を専攻。米大手セラピー・エージェンシーで5年間働いた後に独立。現在、マイクロソフト本社の常駐セラピストを務める。hiroko@lifefulcounseling.com