不測の事態に平和な生活が一変することもあり得ると実感する昨今。緊急事態について普段から備え、身の安全を守るために対策をしていくには? 在シアトル日本国総領事館に話を聞きました。
1. S・M・Lを意識して行動を
海外においては、銃器を用いた大量殺傷事件(マス・シューティング)やテロ攻撃など、思いもよらない事態に遭遇することも考えられます。その際、何よりも自身、家族の命を守ることを最優先に行動することが大切です。
緊急事態の際の行動として、S・M・L(Sound, Moving, Light)を意識しておくと役に立ちます。マス・シューティングに遭遇した際の対処行動は、FBI作成の動画も参考になります。
Sound(音)
爆発音や銃撃音など異常な音がした場所には近付かない。屋内の場合、窓から外をのぞかない。テレビの音声は標的になる恐れがあるため、電源を切る。携帯電話やスマートフォンは着信音が鳴らないように設定する。
Moving(移動)
銃声や爆発音を聞いたら、その場でまず伏せる。周囲の様子を確認し、「逃げる」のか「隠れる」のかを判断する。
逃げる場合:非常口や避難ルートが混み合うため、やみくもに逃げることは避ける。利用する施設の非常口や構造は事前に確認しておく。
隠れる場合:相手から見えない場所に隠れる。その際、携帯電話やスマートフォンの音が鳴らないように設定する。可能であれば、ドアをロックし、バリケードなどを作り、加害者の侵入を防ぐ。
Light(光)
屋内にいて外で爆発や銃撃音など異常な音がしたら、部屋の灯りを消す。テレビの灯りや携帯電話、スマートフォンの着信ランプなども標的になる恐れがあるため電源を消す、または光が漏れないようにする。
2. 有事の際の合言葉「シェルター・イン・プレイス」
化学物質や放射線等の有害物質が漏出している恐れがあり、屋外へ直ちに出ることに危険が伴う場合、むやみに屋外に出て避難するのではなく、避難指示が出る前は周囲の安全が確認されるまで自宅などにとどまることが推奨されています。これを「シェルター・イン・プレイス」と呼びます。
有事の際に、一刻も早く家族と行動を共にしたいと思うのは当然ですが、自宅や職場、学校などにとどまるほうが安全な場合もあります。最新の情報を収集し、適切な行動を取るよう心がけましょう。各種事件事故の際の対処行動は米国国土安全保障省のホームページに詳しく、自然災害を含めた緊急事案について網羅しています。
3. 避難について
① アラートを活用
緊急事態が発生した際の最新の情報は、テレビやラジオに加え、FEMA(連邦緊急事態管理庁)ほか、シアトル市やキング郡など、地元の自治体が行っているアラートで入手できます。
これらのアラートにあらかじめ登録したり、アプリをダウンロードしたりしておくことで、最新の情報を得られるようになります。
FEMAモバイルアプリ: www.fema.gov/about/news-multimedia/mobile-app-text-messages
シアトル市アラート: https://alert.seattle.gov
キング郡アラート: https://kingcounty.gov/depts/emergency-management/alert-king-county.aspx
② 緊急時の連絡手段を確保
緊急事態の際は、携帯電話やテキスト、メールなどが送受信できない事態も起こり得ます。第3国・地域への通信のみ可能となる場合があるため、日本のほか、米国内でもシアトル以外に住む親戚や知人に、間接的な連絡先になってもらうことも想定しておきましょう。また、家族とは、自宅に戻れない場合の集合場所を決めておくと良いでしょう。
③ 避難する場所は?
自宅などから避難する場合、アメリカでは日本と異なり、あらかじめ避難所が定められていることはまれです。避難所の情報は前述のアラートほか、テレビやラジオを通じて入手することになります。
しかし、状況によっては、すぐに避難所が判明しない事態も考えられます。そのため、自宅には、ひとまず家族でしばらく生活できるだけの必要物資を準備しておきましょう。また、避難所は自治体が用意するもののほか、アメリカ赤十字社や民間団体が用意するものもあります。
④ 避難指示が出たら?
避難のタイミングはそれぞれの状況によって異なりますが、避難指示が出された場合には迅速に行動しましょう。自宅から避難するときは、空調設備、電化製品のスイッチを切り、窓やドアを閉め、施錠してください。自家用車で避難する場合は、車内の窓を閉め、外気を車内に入れないようにしましょう。
避難所には、避難指示を受けた人が入ることができ、水、食料、医薬品や基本的な衛生設備が提供されますが、服用している薬や処方箋、重要な書類、着替えなどは持参してください。
⑤ ペットは?
動物を介した感染症等のリスクもあるため、多くの避難所ではペットとの共生は認められません。動物を受け入れる避難所や救援団体、知人等の代替手段を確認し、事前にペットを含めた非常時の計画を立てることが重要です。ペットを連れて避難する場合は、ケージ、リード、ペットフード、薬、予防接種の記録等を持参しましょう。
4. 日頃から準備しておきたいこと
① 自宅でも備蓄を
大きなテロ事件や、放射線、化学物質などに関連した事故の発生直後は、十分な医療が受けられないことがあり、流通経路が混乱して食料品などの物資が入手できない事態も考えられます。
アメリカでは、自然災害や大規模な事故などを想定し、家族が2週間ほど生活できるよう物資を備えておくことが推奨されています。電気やガス、水道などのライフラインが復旧しない、スーパーで食料品が購入できないなどの事態に備え、水や食料、医薬品などを自宅に蓄えておきましょう。
FEMAのホームページには、1年をかけて、緊急事態への必要な備えを整備するマニュアルが掲載されています。また、当館ホームページでも以下の緊急備蓄品リストを例として紹介しています。これらを参考に、連絡手段の確保、緊急事態の行動計画、大切な書類の保管、2週間分の生活物資の準備などの有事の備えを行ってください。
② 近隣エリアのリスク評価
平素からの準備として、地域や職場でどのような緊急事態が発生する可能性があるのか考えておくことも大切です。それに応じた備えをしておくことで被害を軽減することができるかもしれません。
自宅や職場の近くに治安があまり良くない場所が見受けられる場合、銃撃事件に遭遇した際の対処行動をイメージしておくのも、より適切な行動を取るための助けとなるでしょう。
●在シアトル日本国総領事館ホームページ「備蓄品チェックリスト」
飲料水
- 水(1人あたり一日1ガロンを目安)
- 浄水剤(purifying agents: キャンプ用具店等で購入)
食料
- 缶詰(調理済みの肉、野菜、果物。缶切りが要らないものが便利)
- スープ(湯を注ぐだけで飲めるもの)
- ミルク(粉または缶入り)
- 調味料(砂糖、塩、胡椒)
- 甘味類(キャンディー等)
- ジュース(缶入り、粉末等)
- ドライ・フーズ(ビーフジャーキー等)
- ビタミン剤
- 高エネルギー食品(グラノラバー,ナッツ類、バターなど)
医薬品
- アスピリン等痛み止め
- 制酸剤(antacid)
- 下剤(laxative)
- 消毒液
- 活性炭(activated charcoal)
- 下痢止め
- 吐剤(emetic:吐き気を誘発するもの)
- 防腐剤または過酸化水素
- 応急処置に必要なもの(First Aid Kit)
その他
(乳幼児がいる場合)
- 粉ミルク(formula)
- 哺乳瓶
- 紙オムツ
- 必要な薬
- 予防注射の記録
- 子供の好きな本
(持病のある人の場合)
- 血圧計
- 持病用の薬
(その他)
- コンタクトレンズや予備の眼鏡
- 入れ歯等
- ペット用品・食料
書類(防水性のある容器等に保存)
- パスポート
- 社会保険番号
- 保険証書
- 銀行口座番号、証券、株等
- クレジット・カード
- 主要連絡先リスト(予め作っておく)
- 重要な家財リスト
- 出生証明書、婚姻証明書等
用具類
- 紙コップ、紙皿等の使い捨ての食器
- 携帯ラジオ(電池式か発電機能付き)と電池
- 現金(小額紙幣)
- 携帯電話の充電コードと予備のバッテリー
- 消火器
- ペンチ
- アルミフォイル
- 信号灯
- 針と糸
- ガスや水道の元栓を止めるためのレンチ
- 懐中電灯とその電池
- 缶切りや多用途ナイフ
- 携帯用テント
- ビニールテープ
- マッチ(防水性のある容器に入れておく)
- タッパー類
- 紙と筆記用具
- 警笛
- マスクと手袋
衛生品
- トイレット・ペーパー,ウェットティシュー
- 石鹸
- 生理用品
- ゴミ袋
- 蓋付のプラスティック製ゴミ箱
- スコップ
- 消毒剤(disinfectant)
「ゴルゴ13×外務省の中堅・中小企業向け海外安全マニュアル」電子版/動画版
www.anzen.mofa.go.jp/anzen_info/golgo13xgaimusho.html
第10話「平時の危機管理」
https://www.youtube.com/watch?v=ctaMKPk-Ku0
第11話「有事への備え」
https://www.youtube.com/watch?v=U49Q6YbBbrI
第12話「有事への対応」
https://www.youtube.com/watch?v=ErngiMpVY50