知っておきたい身近な移民法
米国移民法を専門とする琴河・五十畑法律事務所 (K&I Lawyers) の五十畑諭弁護士が、アメリカに滞在するで知っておくべき移民法について解説します。
本コラムで提供される情報は一般的かつ教育的なものであり、個別の解決策や法的アドバイスではありません。また、情報は掲載時点のものです。具体的な状況については、米国移民法の弁護士にご相談ください。
シェフとしてアメリカで働く場合のビザ
アメリカでの就労ビザ取得には、必ず雇用関係が必要になります。アメリカには、特定の会社に所属せず好きな時に働く自由契約で取得可能なフリーランスビザはありません。それぞれの就労ビザには明確な申請条件があり、単に「ビザのスポンサーを約束してくれた会社がある」というだけでは、就労ビザを取得できません。今回は、寿司職人などアメリカで働きたい日本人のシェフが検討すべき就労ビザについてお話しします。E-2ビザ
日本人シェフが申請する一般的なビザはE-2ビザになります。E-2ビザはビザのスポンサーが少なくとも50%の外国投資によるレストランであることが条件になっているため、レストラン所有者の過半数が米国市民権やグリーンカード(米国永住権)を保持していない日本人もしくは日本の会社である必要があります。レストラン所有者の過半数がアメリカ人、あるいは日本人であってもグリーンカード保持者である場合には、日本人シェフのE-2ビザのスポンサーにはなれません。
E-2ビザは投資目的のビザです。そのため、日本人のレストラン経営者がアメリカにレストランを開店する場合、アメリカ市民やグリーンカード保持者の労働者を雇用する規模でなければなりません。そのうえで、「アメリカでレストランを経営するに当たり、日本で修行し、しっかりとした実績のある日本人シェフを連れて来たい」というときに考えられるのがE-2ビザというわけです。
E-2ビザをスポンサーできる投資家や企業についてはもちろん、E-2ビザ申請者本人にもクリアしなければならない申請条件があります。まず、E-2ビザ申請者の国籍は、スポンサーとなる投資家や企業と同じでなければなりません。従って、日本人が所有するレストランは、日本国籍以外のシェフのE-2ビザ申請においてスポンサーとなることはできません。
また、E-2ビザ申請者の経験や実績も申請の重要な要素となります。実際に何年の経験が必要といった具体的な条件はありませんが、レストランを経営するうえで必要不可欠な専門知識や技術を求められます。極端な例にはなりますが、「大学時代に2年間、ラーメン屋でのバイト経験がある」などといったレベルでは申請することは難しいでしょう。
レストラン経営者から寄せられる質問で多いのは、最大何人までビザをスポンサーできるかというものです。投資額につき何人、1店舗につき何人までといった決まりはありませんが、レストランの規模や店舗数、運営状況によって、また日本人シェフが必要であることを証明できるかによって、スポンサーできる人数は変わります。前述の通り、E-2ビザは投資目的のため、必ず現地スタッフも雇用しなければなりません。
O-1ビザ
スポンサーがアメリカ人の場合、あるいは日本人のレストラン所有者がグリーンカード保持者であるために、E-2ビザの条件をクリアできないときは、O-1ビザ(卓越能力者ビザ)の可能性を検討してみるのも良いでしょう。O-1ビザは、一般的にはアーティストビザと認識されていますが、実際の許容範囲は広く、科学・芸術・教育・ビジネス・スポーツの分野で卓越した能力を持っている外国人に適合するビザです。そして、「芸術」の分野には、芸能や美術のほか、料理も該当するので、その分野で一般のレベルをはるかに上回った技術のある傑出した人、つまりシェフ業界で有名人と認知されている外国人は、卓越能力者として認められます。
それでは、シェフの卓越能力をどのように証明したら良いのでしょうか。単に料理が上手であったり、料理教室で講師をしていたりするだけでは不十分です。たとえば、国内外で賞を受賞した、料理コンテストで良い成績を収めた、新聞や専門誌その他のメディアで実績などが記事になり絶賛された、料理本や関連書籍といった出版物がある、関連団体やその分野の専門家、評論家から推薦状がもらえる、有名なレストランで働いている、高収入を得ている、特別なライセンスや資格を持っているなど、客観的に料理の分野で卓越した能力があることを実証しなければなりません。
最近、ますます日本料理に関心が高まっているアメリカで、レストランを経営し、日本人シェフを雇いたい場合には、このように、まずE-2ビザまたはO-1ビザを検討すると良いでしょう。