知っておきたい身近な移民法
米国移民法を専門とする琴河・五十畑法律事務所 (K&I Lawyers) の五十畑諭弁護士が、アメリカに滞在するで知っておくべき移民法について解説します。
本コラムで提供される情報は一般的かつ教育的なものであり、個別の解決策や法的アドバイスではありません。また、情報は掲載時点のものです。具体的な状況については、米国移民法の弁護士にご相談ください。
移民を規制する大統領令
4月21日、トランプ大統領が「見えない敵からの攻撃」からアメリカ市民の雇用を守るため、アメリカへの移民を一時的に停止する大統領令への署名をツイッターで明かしました。このツイートでは具体的な措置については語られなかったため、さまざまな憶測が飛び交う事態に発展しましたが、翌22日にトランプ大統領が署名した大統領令の内容は、移民の入国を60日間停止するというもので、移民を全面的に停止するものではありませんでした。この「移民の入国を停止する」の意味ですが、一般的には、米国大使館・領事館での移民ビザ発給を停止するということです。しかし、すでに3月から多くの米国大使館・領事館ではビザ発給業務を停止しているため、この大統領令が実際にどの程度の影響を及ぼすことになるのかはわかっておらず、単に政治的なメッセージではないかという批判の声も少なくありません。
この大統領令は4月23日から発効しています。対象となる外国人は、トランプ大統領が署名した4月22日の時点で、(1)米国外に滞在している人、(2)有効な移民ビザを取得できていない人、かつ(3)移民ビザ以外の公式な入国許可書類を取得できていない人です。
そして、大統領令の対象外となるのは以下の通りです。
大統領令の対象外となるケース
- グリーンカード保持者
- 国務省長官または国土安全保障省長官により新型コロナウイルス対策に従事すると判断された医師・看護師またはその他の医療関係者、およびその配偶者と21歳未満の子ども
- EB-5移民投資家プログラムを通してビザを申請している外国人
- 米国市民の配偶者と21歳未満の子ども
- IR-4またはIH-4カテゴリ・養子縁組を成立させるためにアメリカに入国する孤児
- 司法省長官の助言の下、国務省長官または国土安全保障省長官により、アメリカの法執行にとって重要と判断された外国人
- 米軍隊員、およびその配偶者と子ども
- SIまたはSQカテゴリ・特別移民ビザ、およびその配偶者と子ども
- 国務省長官または国土安全保障省長官により入国が国益につながると判断された外国人
なお、この大統領令は、移民のアメリカへの入国を60日間停止するというものなので、アメリカ国内でグリーンカード(I-485 Application for Adjustment of Status)を申請している外国人、またH-1BやH-2Bビザ、Eビザ、Lビザといった非移民ビザ保持者は対象になりません。ただし、大統領令には、施行から30日以内に労働省長官および国土安全保障省長官は、国務省長官と共に非移民ビザプログラムを見直し、協議のうえ、アメリカの経済、アメリカ市民の雇用を優先するために必要な処置を大統領にアドバイスすることが記載されていますので、今後、何らかの措置が取られる可能性もあります。
たくさんの例外が存在する中で、実際に大統領令に影響されるのはどのようなケースかという疑問を持つ方も少なくないかと思います。一例ですが、米国市民が外国人の親や21歳以上の子ども、兄弟に対して、あるいはグリーンカード保持者が外国人の配偶者や21歳未満の子どもに対して、家族関係に基づく移民ビザを申請する場合が考えられます。そのほか、抽選永住権当選者による移民ビザ申請、前述の対象外のリストに入っていない雇用関係に基づく移民ビザ申請などが挙げられます。
なお、在日米国大使館・領事館では、外交・公用ビザを除く、面接が必要なビザ申請の面接を一時的に停止しています。現段階で面接再開のめどは立っておらず、具体的な期間は発表されていません。しかし、13歳以下の子どもや80歳以上の高齢者の非移民ビザ、または非移民ビザの更新など、面接の必要ないビザ申請は引き続き受理されています。
また、面接が必要なケースであっても、アメリカに緊急で渡航する必要がある場合、面接予約をリクエストすると領事がケースバイケースで緊急性を判断し、認められた場合のみ面接を行っています。たとえば、延期ができない重要なビジネス、親近者の病気や訃報、医療関係者、人道的な理由、年齢によるビザの発給期限が迫っている子どもがいるなどが、緊急面接に該当するケースとなるでしょう。