知っておきたい身近な移民法
米国移民法を専門とする琴河・五十畑法律事務所 (K&I Lawyers) の五十畑諭弁護士が、アメリカに滞在するで知っておくべき移民法について解説します。
本コラムで提供される情報は一般的かつ教育的なものであり、個別の解決策や法的アドバイスではありません。また、情報は掲載時点のものです。具体的な状況については、米国移民法の弁護士にご相談ください。
バイデン大統領就任と移民法政策
1月6日に起こった連邦議会議事堂襲撃後、心配されていた大統領就任式が同20日、無事に行われ、ジョー・バイデン氏が第46代大統領、またカマラ・ハリス氏が女性として、そして黒人・南アジア系としてアメリカ初の副大統領に就任しました。バイデン大統領は、就任初日から連邦施設でのマスク着用義務やパリ協定への復帰、立ち退きおよび差し押さえの猶予期間の延長、メキシコ国境の壁建設の停止など、新型コロナウイルスから経済、移民、環境対策まで幅広い分野で多数の大統領令に署名しました。また、バイデン大統領は、就任前から自身の政権はアメリカを反映するような多様性のある政権にすることを公言しており、閣僚を始めとする主要ポジションに女性やマイノリティーを積極的に起用しています。
移民政策や国境警備を管轄する国土安全保障省長官に指名されたアレハンドロ・マヨルカス氏は、2月2日に上院の承認を得て就任が決まりました。マヨルカス氏は、ラテン系、外国出身の元難民として初の国土安全保障省長官となります。同日、バイデン大統領は移民政策に関する3つの大統領令に署名しました。
●不法移民・難民の親子の再会
不法移民・難民の親子を引き離すことを正当化したトランプ政権の不寛容政策(Zero Tolerant Policy)を取り消し、離ればなれになっている親子を再会させる、またその実行に向けたタスクフォースを設置する。このタスクフォースは、米国政府を始め、関係者、代理人、海外のパートナーなどと協力し合い、再会に必要なステップや、二度とこのような悲劇が起こらないよう、大統領や連邦政府機関にアドバイスすることを目的としている。タスクフォースの委員長は、国土安全保障省長官に就任したマヨルカス氏が務めることが決まり、ファーストレディーのジル・バイデン大統領夫人も、親子の再会を積極的にサポートすることが発表された。
●不法移民の原因追究・戦略、および難民申請制度の再建
トランプ政権が起こした国境の混乱や冷酷な政策を排除し、アメリカ・メキシコ国境沿いの移民を管理するために効果的な措置を取る。特に、アメリカ・メキシコ国境を取り巻く不法移民の根本的な原因を追究し、合法的な戦略を立てる。外国政府、国際機関、非営利団体と協力し、難民希望者に対する自国の近くでの保護やサポートが可能か検討する。また、南米からの移民がアメリカで難民申請ができるよう難民申請制度を見直し、合法的な制度を再建する。
●移民制度の合理化
保護や機会を求めてやって来る人々を歓迎するというアメリカの歴史や特質に反したトランプ政権の移民法政策を見直し、合法的な移民制度に対する弊害を排除する。そして、公正で効率の良い移民制度を復活させる。さらに、公的扶助(Public Charge)に関する方針の見直し、帰化申請制度の合理化を行う。
大統領令に署名する前に、バイデン大統領は、「私は、新しい法律を作っているわけではない。トランプ政権が生み出したアメリカの国や保安にとって逆効果な数々の悪い移民法政策を排除している。公正で、秩序ある、人道的、かつ合法的な移民法システムを作り、アメリカをより安全に、強く、そしてより繁栄させる」と語りました。移民がアメリカの文化や経済に貢献できる制度を作るということは、大統領選の時から公約していた、移民を歓迎し、移民システムを近代化するための第一歩になるのではないかと思います。
ただし、この3つの大統領令の内容からわかるように、今すぐ何か劇的な変化が起こるわけではありません。トランプ政権の移民法政策を見直し、今後のバイデン政権の移民法政策を定め、移民制度を再建するということが目的で、実際に具体的な計画の発表はありませんでした。