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チャレンジする日本人アーティスト

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シアトルを拠点に活躍している日本人は数多い。今回は、チャレンジの多いアメリカという土壌で自ら道を開拓し、より大きく活躍の場を広げているアーティスト4人をご紹介。
取材・文:越宮照代、山﨑悠、山本夕紀、石橋迪与 写真:越宮照代

 

 

照明アーティスト 木下有理さん

20160101_木下有理さん3-min 「作品を設置して電気を付けた瞬間、その場にいる人が『Wow!』とか『Beautiful!』って立ち止まって感動してくれはったときがアーティストとして幸せやと思う瞬間。『やったー!』 と最高に幸せな気分になるわ」 と嬉しそうな笑顔で話すのは、照明アーティストの木下有理さん。シアトル市内の主だった日本食レストランを中心に数多くのレストランの照明デザインを手掛けている。

幼い頃から続く、作品作りへの深い興味

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Happaat レストランギリンGirin

小さい頃から物作りやお絵描きが好きで、姉の夏休みの宿題の工作も手伝っていたそうだ。平面立体関係なく興味があり、箱でテーブルやイスを作ったこともあったという。「将来の家、とかいって広告の裏にイラストを書いたりしてたわ。 しかも、滝が流れてるねん」と笑いながら話す彼女を見て、幼い頃からの好奇心を持ち続けているのが感じられた。
高校まではエスカレーター式の学校に通っていたが、常にデザインを学びたいという気持ちを抱いており、大学進学をきっかけにデザインの道へ進むことを決意。大阪モード学園インテリア学科へ入学した。ここで才能を開花させた彼女は、 卒業制作でインテリアモード大賞を受賞している。
在学中は、図面、カラーリング、モチーフ、内装(3D)など、幅広いデザインを学んだが、特に魅力を感じたのが照明作りだった。初めて学校で作った照明作品は、近所の珈琲屋に置いてもらえることになった。ところが翌日、 「有理ちゃん、売っといたで」と、材料代にもならない値段で売られてしまう。しかし、自分の作品をお金を出してまで欲しいという人が現れたことは、 これからももっと作っていきたいと思う動機になったという。

アーティストとしての独立を決意

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CR8 by Roberto Cortez

卒業後は、世界各国から集めた生地で新しい帯や着物、インテリア小物などをデザインし、日本で販売するという、呉服業を営む実家の輸入関係の仕事を行っていたものの、何年かすると量産型のスタイルが合わなくなり、「自分にしかできないものを作りたい」と、大阪での個展を目標にアーティストとしての人生をスタートした。しかし念願だった個展では何も売れず、日本では大きい作品が求められていないことを知る。そんな時ロサンゼルスで個展をする機会に恵まれた。作品の大きさ関わらず売れ行きは上々。同年シアトルのKobo at Higoでも作品展を行い、アメリカならできると手応えを感じた。2007年のことだ。
翌年、アーティストビザを取得し、シアトルに移住する。その後、腰を据えて活動を続けていくために永住権を申請した。しかし、取得までの道のりは容易ではなく、いくつもの壁にぶち当たった。「そのたびに多くの人の助けを得られたからこそ、現在こうして活動を続けられているんです」。そのことがこれからも頑張ろうと思える大きな原動力になっていると、感謝の気持ちを語った。「スケールの大きい夢を描き続けられるのは、『それは面白そう』と多くの人が協力してくれるから」。茶室を湖に浮かべたフローティングティーハウス『Furyu』や、昨年8月に催された、クレーンに巨大な作品 『Tanjo』をぶら下げて行ったアクロバットとのコラボといった大掛かりなものは、「日本では難しいと思うわ」。何事においてもスケールの大きなアメリカにおいて、有理さんはまさに水を得た魚といえるのかもしれない。

照明デザイナーとして作品にかける思い

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いつか日本のアーティストの方々がシアトルで発表できる日本ミュージアムのようなかっこいい空間がつくりたいという夢もある

これまでの作品で最も気に入っているのは、 最初に作った雲がテーマの大型作品『Izumo』。日本で制作した、有理さんの原点と言える作品だ。
通常、一つの作品を作るのにかかる期間は1、2カ月。和紙を切る作業から全ての工程を一人で行う。作品からは温かみと彼女の大らかな人柄が感じられ、スタジオは柔らかな明かりで包まれている。
作品の名前は英語、日本語に関わらず、パッと頭に浮かぶものを直感でつけているそうだ。つい最近デザインを手がけたレストラン、ダリアラウンジ(Dahlia Lounge)には『Amakudari』と名付けた作品が置かれている。従業員から意味を尋ねられ、「天と地上を繋ぐもの」と答えた。ひとつひとつに思いを込めて付けた名前だけに、興味を持ってもらうと嬉しいそうだ。
今後は、アメリカで夢を持っている人々ともっとコラボをしていきたいという。まだ挑戦したことのない、ホテルに関わる仕事に特に興味があり、リゾートホテルのロビーや各部屋の照明を手がけて、すべて違うデザインにしてみたいと力強く語ってくれた。

ウェブサイト:www.yurikinoshita.com