『Dunkirk』(邦題『ダンケルク』)
~映画館で見るべく作られた戦争映画~
シネコンがスーパーヒーロー物に席巻されて、大人の観客が減っている気がする。HDの大型TVモニターの登場で、わざわざ映画館に足を運ばなくても、家でじっくり映画を堪能できる時代になってきたこともあるだろう。だが、本作には大人の鑑賞に耐える人間のドラマに加えて、シネコンの大スクリーンで見るべく、デジタルではなくIMAX65mmと65mmという大型フィルム(通常は35mm)を使って撮影された。映画館の大スクリーンで見てこそ、その素晴らしさが堪能できる作品と言える。
監督は、『インセプション』『インターステラー』などの先鋭的な映像と物語世界で世界中を魅了し、観客からも批評家からも高い評価を得ている英国の名匠クリストファー・ノーラン。この最新作は、第二次大戦の舞台にした実話を元にしている。
1940年春、北フランスを制圧したドイツ軍は新兵器を駆使して優勢。イギリス、ベルギー、カナダ、フランスからなる連合軍兵はフランスのダンケルク海岸に追い込まれ、撤退の準備をしていた。その数約40万人。海岸には救助船を待つ兵士たちの長い列が続き、上空には彼らを狙うドイツ軍戦闘機が爆撃を続けていた。
本作はダイナモ作戦と呼ばれた史上最大の撤退作戦を、一人のヒーローに焦点を当てるのではなく、陸、海、空からの3つの視点から描いていく。陸では撤退を指揮する司令官(ケネス・ブラナー)の苦渋と、若い英国二等兵トミー(フィオン・ホワイトヘッド)の必死の脱出劇。空はパイロット(トム・ハーディ)が繰り広げるダイナミックな空中戦、そして海からは自分の船で救助に駆けつけた民間人ドーセット(マーク・ライランス)と息子たちのドラマが描かれる。
特撮を極力減らし、伝統的な映画作りの手法にこだわったノーラン監督。40万人が待つ海岸の遠景には厚紙で切り抜いた人型を並べ、海には海軍駆逐艦を浮かべ、空中戦では多くの戦闘機を実際に使い、水没させた。そのクリスプな映像と音響には特撮にはない並外れた迫力とすごみ、臨場感があった。
米国など第二次大戦の戦勝国は、とかく輝かしい戦果を映画として描いてきた。だが、本作はあえて撤退という負の歴史を、壮大なスケールで描くことで、戦争の虚しさを映し出していたように感じた。果敢に戦った人々が描かれたとはいえ、大成功と言われたこの撤退で1万人も戦死者が出ていたのである。
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