双葉の酒造りをシアトルで
東日本大震災から13年、福島県では現在もなお、復興に向けてさまざまな取り組みが行われています。福島の酒をシアトルで造り続けるSHIRAFUJIを取材しました。
取材・文:佐藤千咲
※本記事は『北米報知』2024年3月8日号掲載の英語記事、日本語原文を一部抜粋したものです。
福島県双葉町で300年続いた酒蔵、冨沢酒造店。2011年の東日本大震災後、福島第一原発事故が起き、地元での酒造りが困難となった。現在は、ワイン造りが盛んなウッディンビルに拠点を置く。
◀︎ SUIMEI NIGORI Junmai Sake(左) 瓶の中で酵母が生きている辛口のお酒Shirafuji Junmai Nama Sake(右) リンゴなどさまざまな果実の香りとワインのようなスッキリとした味わいが特徴
冨沢酒造を支える兄妹、守さんと真里さんは、双葉の酒蔵が使えないことがわかった当初、まず日本全国を視野に、千葉、埼玉、栃木、大阪、三重、広島、島根で酒蔵を探した。しかし購入できたとしても、酒販法のため、酒の販売は双葉町でのみ許可されている。これまで築き上げてきた酒造りを再開する方法はないのかと苦戦した。
その後、縁があり、真里さんが知人のアメリカ視察に同行。アメリカでの酒造再開に可能性を感じ、2014年の渡米を決断した。日本を出て海外でスタートする事業者が増えてきた時期と重なり、すでにアメリカでの事業を経験した人から、いろいろ教わる機会を得られたのも大きかった。酒造に関する規定が日本とは大きく異なり、ライセンス取得には苦労した。
アメリカでは、どのような酒が飲まれているのかなどの実地調査も続けた。当時、日本の商品が今のように簡単に手に入る世の中ではなく、どのように販路を開拓していくかが課題だった。酒造りをすることも、販売し続けることも、非常に難しい現実があった。震災の復興が進んでいく中で、双葉に戻ることも頭をよぎったが、震災前と違い、住んでいる人の多くは除染作業員。やはりアメリカが最適と、考えを新たにした。 ▲SHIRAFUJIとして再出発した守さんと真里さん。父を囲んで
今年で渡米から10年目を迎えるSHIRAFUJI。酒造りに必要な米、山田錦はアーカンソー州から取り寄せている。水は双葉の井戸水に近いものを使用。目指すものが「復興」から「チャレンジ」へ変わった。近年、日本酒人気は衰えを知らず、近所のスーパーでも買えるようになってきている。ただ、試練はまだある。
「日本人の求める酒と、外国人の求める酒は異なります。アメリカにいるからこそ、需要に合わせたものを造り続けなければいけない」。場所は違えど、歴史ある双葉のSHIRAFUJIはこれからも続いていく。「さらに多くの人に、手に取ってもらうことが目標です」。
Shirafuji Sake Brewery1
8800142ndAve.NE.,Unit#1A,Woodinville,WA98072
TastingRoom
営業時間:金3pm~6pm、土日2pm~6pm
https://shirafuji.com