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シアトルのバリアフリー事情と日本の「おもてなし」

シアトル留学生活2日目で衝撃を受けたことがある。それは、バリアフリー設備の充実ぶりだ。アメリカで生活している人にとっては当たり前になりつつあるのかもしれない。しかし、日本では決して見たことのないものばかりだ。

たとえば、公共交通機関の車いす対応。バスでは運転手だけでなく乗客までも車いす用スペースの作り方を心得ていて、座席を折りたたみ、ベルトを使って車いすを固定する作業も手慣れたものだ。幾度もこの状況に遭遇してきたが、運転手も周りの乗客も嫌な顔をする人などは一切見たことがない。シアトル市内を走る電車、リンク・ライト・レールも、プラットホームと乗り物の間に段差も隙間も少なく、車いすの人も不自由なく乗降できるようになっている。

建築物にしてもそうだ。どの施設にも必ずスロープがあり、入り口の横にはドアを自動開閉させるボタンが付く。周りに人がいなくても自分でドアから出入りが可能だ。

 


こうしたバリアフリー設備が広まったのは、アメリカの障がい者の権利を擁護する法律「障がいを持つアメリカ人法(American with Disabilities Act of 1990、以下ADA)」にさかのぼる。1990年7月にADA法制定以来、アメリカでは現在のようなバリアフリーに対する理解や意識が高まっていった。

障がい者に、障がいのない人と等しく生きる権利を。この「ノーマライゼーション」と呼ばれる考え方は、スウェーデンなど北欧諸国では長く浸透してきている。アメリカでも1950年代から1960年代に公民権運動が起こったと同時に、障がい者の権利保障のための運動も起こっていた。しかし公民権法は人種、性別、出身国、宗教による差別禁止を定めたのみ。そこで1970年代から80年代にかけ、障がいを持つ子どもへの教育資金支援や建築物基準に関する法律が制定され、前述したADA法につながった。

日本では数年前に「おもてなし」という言葉が流行した。日本は世界でも有数のホスピタリティ大国として知られるが、果たして本当にそうだろうか? 私はシアトルの進んだバリアフリー化を目の当たりにし、ふと疑問に思った。

 

2020年には東京五輪が開催される。運営委員会が打ち出す3つの基本コンセプトのうちのひとつに、「多様性と調和」がある。「人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治、障がいの有無など、あらゆる面での違いを肯定し、自然に受け入れ、互いに認め合うことで社会は進歩。東京2020大会を、世界中の人々が多様性と調和の重要性を改めて認識し、共生社会をはぐくむ契機となるような大会とする」と、公式ホームページで解説している。

実際に新国立競技場の車いす席やトイレのデザイン案が、一時話題となった。しかしこうした運営側だけの事柄でなく、国民レベルでの障がい者に対する意識の底上げが急務だと感じる。オリンピックをきっかけに真の「おもてなし」について考える時ではないだろうか。

アメリカに長く住む方も、この国のバリアフリーが世界では当たり前ではないことを心に留めて欲しい。日本に帰国の際、日本に住む友だちに話してみても良いかもしれない。私自身、世界のバリアフリー事情についてもっと知りたいと思った。小さな取り組みではあるが、これがいつか変化の大きな波になればと願っている。

山川 彩
上智大学総合グローバル学部在学中で国際政治専攻。現在シアトルに1年間の留学中。バイト代はほとんど海外旅行に費やすタビジョ。今まで訪れたのは世界23都市。学生ならではの節約旅でいかに多くの旅行ができるかに挑戦中! 本場メキシコで食べた料理が今でも忘れられない。音楽とダンスをこよなく愛する。