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『A Five Star Life』

写真クレジット:Music Box Films
写真クレジットMusic Box Films

ゴージャスならおまかせのイタリアらしい設定で、40代の独身キャリアウーマンの感性と生き方を、ソフトなタッチで描いた佳作。おいしいイタリアンの軽食で小腹を満たしたような満足感があった。

美人でオシャレなイレーネ(マルゲリータ・ブイ)は、覆面調査員だ。5つ星ホテルに身元を隠して宿泊し、密かに部屋の清掃状態やサービスをチェックするのが仕事。業界では「ミステリー・ゲスト」と呼ばれる。そんな彼女を、結婚して2人の娘がいる妹シルヴィア(ファブリツィア・サッキ)は、「年を取ったらどうするの?」と心配する。だがイレーネはどこ吹く風、自信に満ちた仕事ぶりで世界中を駆け回り、ゴージャス・ライフを満喫していた。ところが、そんな彼女の生活に少しずつ変化が起きる。旅先で出会ったフェミニスト学者との会話を通して、自分の生き方を振り返ることに……。

イタリアのベテラン女優ブイが洗練されたファッションに身を包み、颯爽とホテルのロビーを歩く姿が素敵だし、モロッコのパライス・ナマスカールなど実在する5つ星ホテルが舞台というだけでも眼福だ。子どものいない独身女性の将来を家族が心配するという設定が分かりやすい。

監督のマリア・ソーレ・トニャッツィは、イタリアでも子無し独身女性が増え、同性愛カップルなど非伝統的家族形態が人口の17%を占めている現実が昨今の映画作品に反映されていないことに着目、本作を思いついたという。

ベテラン脚本家フランチェスカ・マルチャーノらとオリジナル脚本を書き、今を生きる独身女性の感性に生命感を吹き込んでいる。

イレーネの大の親友は元カレで、彼の恋愛相談に乗っているという設定が面白い。彼女の感性には旧来の家族や恋愛関係につきものとされているベタリとした依存性がなく、さっぱりとした自立性がある。一人で生きるキャリアウーマンは米国の映画にもしばしば登場し、合理的で強い女性像として描かれる傾向があったように思うが、本作では合理よりも不合理が、強さよりも成熟が際立ち、共感が持てた。イレーネの最後の言葉「人生は旅、自分の直感を信じよう」というメッセージは何度聞いても悪くない。

上映時間:1時間25分。シアトルはSeven Gables Theatreで上映中。

[新作ムービー]

土井 ゆみ
映画ライター。2013年にハワイに移住。映画館が2つしかない田舎暮らしなので、映画はオンライン視聴が多く、ありがたいような、寂しいような心境。写生グループに参加し、うねる波や大きな空と雲、雄大な山をスケッチする日々にハワイの醍醐味を味わっている。