コロナ禍で生活が大きく変化する中で「これからの生き方」を考えさせてくれる本とは?日本文学や中国文学に詳しく、年間100冊を読む紀伊國屋書店シアトル店の永井泰伸店長に選んでもらいました。さらにソイソース編集部員が、個人的なお気に入りをよりすぐってご紹介!
取材・文:加藤良子
紀伊國屋書店シアトル店
永井泰伸店長が選ぶ6冊
生き方
稲盛和夫(サンマーク出版)
おすすめPoint!
自分に恥じない生き方をするために
人生に真摯に向き合う大切さを説く本書は、折々で読み返すことでさらに深みを持ちます。「肝心なのは勤勉」と繰り返し説き、真剣に仕事に打ち込むことがいかに大切か語られています。さまざまな働き方が増えている昨今、日本人らしい忍耐強さがなぜ重要なのか、勤労の美徳について見直す機会を与えてくれます。仏教や歴史の話も盛り込まれ、日本人の感性や文化に寄り添う自己啓発書の決定版。個人または人類として、混迷を極める時代を進むよすがになる作品です。
漫画版 君たちはどう生きるか
吉野源三郎/羽賀翔一(マガジンハウス)
おすすめPoint!
主人公が見出す道徳への答えとは
心温まるさわやかな物語は、今読んでも新鮮な感動を覚えます。コペルくんの学校でいじめが起き、ある出来事をきっかけにクラス全体がいじめっ子を糾弾し、いじめられっ子の味方に付く流れに。立場が入れ替わったのを感じたいじめられっ子は、もう止めてくれと言います。人とのつながりの中で、どう行動を決断すべきか、おじさんはメンターとしてコペルくんに道徳を問いかけます。1度足を止め、再び進むべき道を示してくれるような1冊です。
AI vs.教科書が読めない子どもたち
新井紀子(東洋経済新報社)
おすすめPoint!
AIの技術革新で仕事を奪われる?
これまでは技術革新により失業者が増えても新たな職業の雇用が生まれ、バランスを取りながら前進してきましたが、AIの発達でそのバランスが崩れつつあるようです。AIにできること、できないことを具体的に示しつつ、どのような仕事が奪われるのか、ロボットに東大合格をさせるプロジェクトに携わった著者が、読解力のテストを交えて解説していきます。どうAIとすみ分けをしていけば良いのか、これからの人材に必要とされる能力が明かされます。
おカネの教室
高井浩章(インプレス)
おすすめPoint!
お金への理解が人間関係も変える
子どもたちが楽しくお金や経済について学べるように書かれた本。「そろばん勘定クラブ」というおかしなクラブに所属する部員たちが、税金や融資の講義を通じてお金について学んでいきます。お金への理解が深まることで少しずつ人間関係が変化していく様子も描かれています。お金を手に入れる方法は、かせぐ、ぬすむ、もらう、かりる、ふやす、そして最後のひとつは? 大人が読んでも面白い、これからのお金について考えるための入門書。
感染症対人類の世界史
池上 彰/増田ユリヤ(ポプラ新書)
おすすめPoint!
感染症と冷静に向き合うヒントに
中世の時代、感染症での人口減が貨幣価値にまで影響し、社会の形を大きく変えていきました。感染症を歴史に絡め、実践的に学べる本としておすすめです。コラムでは、文学や芸術などへの感染症の影響ほか意外なこぼれ話も。ペスト流行時、ニュートンは故郷でゆっくり考える時間があったために万有引力の法則を導き出せたとするトリビアが紹介されています。新型コロナの影響を受ける、これからの世相を予測するための手引きにもなるかもしれません。
ニューヨーク大学人気講義 HAPPINESS
スコット・ギャロウェイ(東洋経済新報社)
おすすめPoint!
違った切り口から「働くこと」を考える
仕事だけでなく、自身の生い立ちや家族にも触れ、愛や人間関係の重要性を熱く語り尽くしています。20代から30代にかけては一生懸命仕事に取り組むべきという点では既出の『生き方』と共通していますが、忍耐といった日本人らしい稲盛和夫氏の勤労観とは対照的に、本書ではアメリカ的な見方での人生哲学が説かれています。振り幅の大きな2冊を併読することで、自分なりの生き方を模索してみるのもアリなのではないでしょうか。
ソイソース編集部が選ぶ5冊
妻のトリセツ
黒川伊保子(講談社)
おすすめPoint!
女性が読んでも目からウロコ!
夫はもちろん、妻の立場で読むのもおすすめ。自分で言葉にできない女性脳特有の思考パターンの解説が当たり過ぎていて笑ってしまいます。妻が言いがちなセリフが実は全く本音ではないこと、本意はどうあれ相手に共感して心を肯定する言葉を投げかけようという妻の取り扱いの注意点など、思わず「そうそう!」とうなずきたくなる女性は多いのでは。脳の性差を理解することで、夫への理解が深まるヒントになる場合も。平易な文章で、さらっと読めます。(R)
日本人はどこから来たのか?
海部陽介(文春文庫)
おすすめPoint!
「日本人」より前のルーツを知ろう
数万年前にアフリカを出た人類が、ヒマラヤ山脈を南北に分かれてモンゴルの平原を、もしくはインドから東南アジアの海洋を渡り日本列島までたどりついた壮大な旅。世界地図を広げ、旅行代わりにこの本を読んでみては? 国立科学博物館人類史研究グループを率いる著者が、考古学、地理や生態系、言語学、DNA研究など多岐にわたる分野から考察し、文系人間にもわかりやすく解説。縄文文化を築いた祖先につながる歴史を知ることができます。(M)
流(りゅう)
東山彰良(講談社)
おすすめPoint!
ミステリーを通して台湾の歴史が学べる
1970〜1980年代にかけての台湾の政治、戦争の描写から当時の理不尽さを改めて実感できる作品です。主人公が戦争に翻弄されながらも真実を求め、前進しようとする姿も見どころのひとつ。人間の弱さやもろさといった人間味が出ていて面白く感じます。ミステリーのスリル感も後半になるにつれ加速し、最後のどんでん返しには驚くだけでなく、涙を誘う場面も。読み終わった後は、温かい気持ちでいっぱいになります。(S)
きょうの猫村さん
ほしよりこ(マガジンハウス)
おすすめPoint!
うちにも来てネコムライスを作って欲しい!
この漫画を初めて読んだ時は衝撃でした。柔らかな鉛筆のタッチが独特。主人公が猫でパーフェクト家政婦という設定だけで癒されます。猫ながらに奉公先であるトラブルだらけの犬神家の人たちと向き合い、一生懸命考えた結果が不思議なおかしみを醸し出し、読み進めていくうちにほのぼのと優しい気持ちになれます。TVドラマ化で再ブームの予感。スピンオフ作品として猫村さんが雑誌編集部で働く『カーサの猫村さん』シリーズも出ています。(N)
坂の上の雲
司馬遼太郎(文藝春秋)
おすすめPoint!
日本男児の気概に触れられる骨太な長編小説
自らの成長が国家の発展に直結すると信じてひたむきに生きた男たちに、すっかりほれ込んでしまいました。NHKでドラマ化された時は、小説の舞台である愛媛県松山にも出かけました。秋山真之の銅像前では掃除ボランティアの方から目撃情報も入手。秋山真之の写真とそっくりな男性が凛とした眼差しで銅像を見上げていると思ったら、なんとドラマで真之役を務めた本木雅弘さん本人だったそう。読破するには根気が必要ですが、一読の価値があります。(A)
平日11am~5pm
引き渡し場所:Weller St.側入口
最新情報はhttps://usa.kinokuniya.com/stores-kinokuniyaにて