シアトルの人は図書館が大好き。
人口約65万人のシアトル市にある図書館の数は、なんと28館。東京・杉並区(人口約56万人)の13館、世田谷区(約89万人)の16館と比べてもかなり多く、米国内でも群を抜いている。シアトルでは1998年、「Library for All(すべての人に図書館を)」という名の包括的な図書館システム刷新プログラムのために2億9000万ドルの予算が住民投票によって確保された。全米でも前例がない規模のこの予算で、市内の図書館はすべて新築または全面改装されて、個性的でオシャレな28の公共空間が生まれた。もちろん、その中のスーパースターはダウンタウンにある中央図書館。
2004年にオープンした中央図書館は、オランダのレム・コールハースとシアトル出身のジョシュア・プリンス=ラマスによる設計。多面体を不規則に重ねたかたちのビルは、鉄骨とガラスの「皮膚」を通して外の風景と自然光を室内に取り込み、雨の多いシアトルで太陽光を最大に活かす構造。最上階の11階にあるリーディングルームからはエリオット湾も眺められる。
デジタル化の進む現代では、図書館の役割もこれからどう変わっていくのか予測がつかない。中央図書館のまんなかには、時代の変化を考慮してどんな活動でもできるような柔軟な空間が用意されている。3階(5thアベニューから入る地上階)には最上階までの巨大な吹き抜けの下に「リビングルーム」と呼ばれる広々としたロビーが広がり、蛍光イエローのエスカレーターでもう1フロア上に上がると、そこにも大きな空間。ここには無料で使えるコンピュータが並ぶ。館内には現在、一般利用者用に400台のPCが用意されている。
その上の4フロアは「スパイラル」と名付けられたアナログでオーガニックな空間。昔ながらの書架が4階分にわたってらせん状にぐるぐると続く。米国の図書館ではノンフィクションの書籍が19世紀からの図書分類法に従って000から999までの数字で分類されているが、その分類システムを目に見える形で表現したユニークな構造だ。
不況を受けた市の予算削減で、数年間にわたり図書館の開館時間も減らされていたが、2012年、シアトル市民はむこう7年間にわたり合計1億2300万ドルを図書館のために使う目的税にゴーサインを出した。ダウンタウンの中心で異彩を放つ、世界の一流建築家による最先端の建築物が、商業施設でも役所でもなく誰でもが無料で利用できる公共スペースであることを、多くの市民が誇りに思っている。
[たてもの物語]