前回の中央図書館に続いて、シアトルが誇る名物図書館をもうひとつご紹介。ワシントン大学のスザロ図書館だ。ワシントン大がダウンタウンから現在の場所に移転してまもなく、1915年に学長に就任したスザロ氏が「1000年後にも残る大学」を目指して壮大な改革に乗り出し、それまで暗くて狭い建物につめこまれていた図書館を一新。図書館は「Soul of the University(大学の魂)」なのだからと、この壮麗なゴシック聖堂のような建築を構想した。当初のプランでは中心に高さ100メートルの鐘楼を備える三面構成であったという。
見学は誰でも自由にできて、もちろん無料。建物好きなら一度は足を運ぶ価値ありの観光名所といえる。彫像が並ぶいかめしい入り口を通り、案内デスクとカフェテリアを横目に進むと、両側に石造りの優雅な大階段がある。ここをのぼると、有名な読書室の前へ。「静かに」と注意書きがある古めかしい扉の向こうには、ホグワーツ魔法学校の大ホール……を誰もが思い浮かべる巨大な空間が広がっている。ふつうのビルなら7階分くらいの高さがあるアーチ型の大天井の下に木製のデスクが何列も並び、高窓から柔らかな光が注ぐ。コンピュータが置かれているわけでもなく、21世紀の今では特に実用的な空間ではないのだけれど、おごそかな気持ちにさえさせてくれる、まさに「大学の魂」にふさわしい場所だ。
聖堂をお手本にしたデザインではあるが、ここで讃えられているのは神の偉大さではなく、人類のあくなき知への探求とその成果。両端には手描きで彩色された大きな地球儀が吊るされ、探検者たちの名前が記されている。ステンドグラスには聖人や天使ではなく、珍妙な生きものの姿が。このヘンな生きものたちはルネサンス期に使われていた透かし模様を集めた書物の中から選ばれたものだそうだ。
広場に面した正面外壁には、テラコッタ製の像が18体並んでいる。当時の教授陣が選んだという「学問と文化への貢献を象徴」する知の偉人たちで、モーセ、パスツール、ダンテ、シェイクスピア、プラトン、ベンジャミン・フランクリン、ニュートン、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ベートーヴェン、アダム・スミス、ダーウィンなどが思想、芸術、科学、法律などの各分野を代表している。
この図書館には、まだ欧州に比べて若輩国であったアメリカの、しかもその中でもごく若い最西端の街の大学が持っていた、新時代の知性の担い手としての強烈な自負が溢れているように見える。
www.lib.washington.edu/suzzallo/visit/history
4000 15 Ave. NE, Seattle, WA 98195
[たてもの物語]