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濱口竜介監督の最新作『悪は存在しない』が上映!〜行ってきました

濱口竜介監督の最新作
『悪は存在しない』が上映!

2021年の『偶然と想像』、『ドライブ・マイ・カー』、今年公開された『悪は存在しない』をもってベルリン国際映画祭、カンヌ国際映画祭、ヴェネチア国際映画祭の世界三大映画祭での受賞を制覇した濱口竜介監督最新作の『悪は存在しない』が、5242週間にわたりキャピトルヒルのSIFFシネマ・エジプシャンで上映されました。

取材・文:加藤良子

Courtesy of Sideshow Janus Films

舞台は自然豊かな長野県水挽町みずひきちょう。住民はこの地域に流れる良質な湧水を大切にし、誇りに思いながら暮らしている。ある日、水挽町にグランピング施設の建設計画が持ち上がり、住民説明会が開かれる。しかし、実態はコロナ禍のあおりを受けた芸能事務所が政府からの補助金を得て計画したもので穴だらけのずさんな企画だった。合併浄化槽の浄化能力や設置場所に関する質問が殺到するものの、説明会を担当する高橋とまゆずみは住民を納得させられる回答ができない。水源を汚染する可能性のある施設の建設に住民が反対する中、主人公のたくみは説明会の再開催を提案する。

この作品の見どころの一つは、住民説明会のシーンだ。東京から来た高橋と黛が住民に冷たくあしらわれる場面では客席から笑いが起きた。巧が「ここら辺は戦後の農地改革で、土地がない人に与えられた土地だ。ある意味、みんなよそものなんだ。俺たちは自然を利用し、壊してもきた。問題はバランスだ。やり過ぎたら、バランスが壊れる」と言うセリフにはうなずく人もいた。白熱した議論のシーンは20分ほど続き、観客も夢中になっている様子がうかがえた。

Courtesy of Sideshow Janus Films

水挽町で暮らす巧と娘の花は、白骨化した小鹿の死骸を見つけても驚かないが、東京から来た黛は思わず凝視する。誰にも葬られずにひっそりと横たわったままの姿を見て、人間が決めるルールが通用しない自然の領域に踏み込んだことを黛はどう感じたのだろう。

映画の中では、さまざまな対比が描かれていると感じた。水挽町の人と東京の人。花の青いジャケットと高橋の赤いジャケット。昼間の森と夜の森。登場人物についてもつい善と悪とに対比したくなった。はっきりさせた方が、物語の複雑な側面に向き合わなくて済むからだ。でも、そのたびに『悪は存在しない』というタイトルが頭をよぎり、そういう事ではないのだろうと思わされた。

作品に映し出される森の映像に静かで美しい音楽が見事にマッチし神秘的な世界に誘ってくれるようだった。議論の余地を残す衝撃のラストは、何度も見返して答え合わせをしたくなるような引き込まれる作品だった。