友だちはありがたい。私が日本に来ると知って、都合をつけて再会を喜んでくれる。大阪では、花屋の正子さんに連れられ、日本一高いビル「あべのハルカス」を見物。有料かつ混み合う最上階天井回廊は避け、無料で行ける16階屋上庭園へ。ビル群が地平線まで続く大都市を眼下に見渡す。夜は居酒屋「まいど」で、最近バンクーバーから大阪に戻った韓国料理人のミンジェイ、書家の翼沙さん、そして正子さんと夕食。ひとりで店を切り盛りする女将のマキちゃんが、私の好物である和ニンジンの煮物を覚えていて、そっと出してくれる。阿吽の呼吸で用意される小鉢の数々と、気の合う友人たちに囲まれて、「来て良かった」としみじみ思う。
1週間の韓国旅行を終えて京都入りした翌日、韓国から一緒に来た韓国系カナダ人のジェームズと琵琶湖雄琴温泉へ出かけた。シニアになると、不動産税や電車・バスの運賃から、旅館、映画館、病院の食堂といったものまで割り引きになる。「今の人生はおまけ?」と卑屈になるが、「シニアの特権」と開き直った。旅館の夕食は近江牛のすき焼きを含む20種類に近いごちそうで、ジェームズも大喜び。生まれ故郷の琵琶湖がきれいに見えた。
翌日は私が育った湖西の安曇川町を訪ねる。見慣れない派手な飲食店があちこちにあり、世代交代を目の当たりにして切なくなる。幼なじみの純子さんの運転で、今津町までドライブ。母校の高校では、ふたりで過ごした演劇部時代を思い出す。彼女は交通事故の後遺症を背負いつつ洋服店を経営し、ヨガ・インストラクターの仕事までこなして周りの人を引っ張っていく。「あきらちゃんは耳がよく聞こえないから、同じことを何度も聞き返す。補聴器を替えないと人から見放されるよ」と、相変わらず世話好きだ。
1日観光バスでジェームズに京都の名所を案内後、新幹線で網代温泉へ。老舗「平鶴」で1泊したが、畳に座っての夕食が苦痛だった。周りを見ると30センチほど高くなるシニア向けの椅子を使う方々を発見。次は自分も使おうと思う。熱海で博物館を営む高校時代の親友も加わって、互 いの近況を交換。今でもいろんなことに挑戦する彼や純子さんは魅力的だ。こちらののんびりした引退生活と比べると、「自分は頑張っていないかな」と心が揺らぐ。
友人家族の世話で八ヶ岳南麓、山梨県北杜市の山荘にも泊まった。この辺りは人口わずか5万人弱と少ないが、澄 んだ空気や日本一長い日照時間に恵まれ、人気の別荘地となっている。地元農家の名前入り有機栽培野菜の売店や、新鮮な食品がそろう大きなスーパーを訪れると、値段も安く、地元の人たちの食生活がうらやましい。バンクーバーでは味わえないような回転ずしや手打ちそばに舌鼓を打ったら、大浴場、アイリッシュ・バーへ。楽しいリゾート生活を体験できた。各地に住む友だちのおかげで、日本文化の心地よさを再認識した旅となった。
[カナダで再出発]