晴歌雨聴 ~ニッポンの歌を探して Vol.2
日本のポピュラーカルチャー、特に1960-70年代の音楽について研究する坂元小夜さんが、日本歌謡曲の世界を案内します。
第2回 木ですら涙を流すのです
アメリカの町でレコードショップを見つけると、必ず日本のレコードを探します。日本のレコードは、たいてい「ワールドミュージック」か「アジア」などと大ざっぱにジャンル分けされた小さなコーナーにあることが多いです。残念ながら、新品のコーナーに日本のミュージシャンのレコードを見つけることは少なく、中古のコーナーに古い歌謡曲や演歌、琴、童謡のレコードがたまにあるくらいです。
ところが数年前、シアトルに拠点を置くレコードレーベルが、アメリカのレコードショップではなかなかお目にかかれない日本のレコードを頻繁に扱っていると知りました。再販専門のレコードレーベル、ライト・イン・ジ・アティックです。スペース・ニードルのお膝元、シアトル・センターにあるラジオ局、KEXPの1階にあるギャザリング・スペースの一角にこのレーベルの小さなレコードショップがあります。そして2017年には何とも珍しいタイトルのレコードが同レーベルから発売。そのタイトルとは、日本語で「木ですら涙を流すのです」。1969年から1973年にかけてリリースされた日本のフォークロックを集めたコンピレーションアルバムです。50年近くも前の日本語の楽曲が、アメリカで発売されるのは非常に珍しいことです。
タイトルは、関西のフォークグループ、五つの赤い風船のリーダーだった西岡たかしの「満員の木」の歌詞から。2枚組のレコードには、東ははっぴいえんどや遠藤賢司、西は元ザ・フォーク・クルセダーズの加藤和彦や赤い鳥など、19組のアーティストの曲が収められています。ブックレットには各楽曲のアルバムジャケットの写真と共に、英語の解説と日本語の歌詞も付いています。
このレコードをプロデュースしたのは、自身もミュージシャンであるジェイク・オラル氏。10年以上前に、シアトルのレコードショップの在庫処分の箱に入って安売りされていた、アンダーグラウンドレコードクラブ(1969年に設立された日本初のインディーズレコードレーベル)のシングル集CD2枚組を買い、そのメランコリックな音楽性に夢中になったそう。それ以来、日本からレコードを買い集め、年月をかけてコレクションを増やした集大成がこのレコード「木ですら涙を流すのです」というわけです。当時の日本のアンダーグラウンドな音楽が、こうしてアジアの外の文化圏に紹介されるのは初めてのことです。