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タンゴ・ヨーロッパ〜晴歌雨聴 ~ニッポンの歌をさがして第47回

晴歌雨聴 ~ニッポンの歌をさがして

日本のポピュラーカルチャー、特に1960-70年代の音楽について研究する坂元小夜さんが、日本歌謡曲の世界を案内します。

タンゴ・ヨーロッパ

皆さん、タンゴ·ヨーロッパというバンドをご存知ですか? 1980年代にデビューした女性5人グループのロックバンドです。先日、カリフォルニアの日本人タウンとも呼ばれるトーランス市にあるレコードショップに行き、偶然タンゴ·ヨーロッパのレコードを見つけました。1980年代の日本の音楽というと、今でこそシティー·ポップ系の楽曲をアメリカのレコード店でもよく見かけるようになったのですが、タンゴ·ヨーロッパのようなジャンル不詳であまり知られていないバンドのレコードに出会えることは稀です。ソーシャルメディアが普及した昨今、アルゴリズムのおかげで好みの音楽に出会う可能性は広がりました。また、過去の音楽ジャンルが時代や文化圏を超えて受け入れられるという、以前は考えも及ばなかったような現象も普通になりました。シティー·ポップの世界的な人気もその例のひとつですね。だからこそ、レコード店に出向いて知らなかった音楽に出会う、この奇跡的な偶然を大切にしたいものです。

タンゴ·ヨーロッパの音楽はジャンル性に囚われない自由さを感じます。1982年にアルファ·レコードよりシングル「きらいDAIきらい」でデビュー。作詞は当時の人気作詞家、森雪之丞が多く手がけています。3枚目のシングル「ダンスホールで待ちわびて」は細野晴臣による作曲です。プロデューサー陣から提供された楽曲を演奏するだけのアイドルバンドとは違い、楽器の演奏テクニックやアレンジ力の評価も高いのがタンゴ·ヨーロッパの特徴です。1984年にキング·レコードよりリリースされた4枚目のシングル「桃郷シンデレラ」はボーカルの斉藤美和子が作詞、ギターの是沢敦子が作曲、メンバー自身で編曲もしています。着物姿のボーカル担当斉藤と、メイドのようなユニフォーム姿で楽器を抱えたバンドメンバーのジャケット写真も印象的です。単なるストレートなガールズ文化の表現などではなく、一捻りも二捻りもあるポップセンスに思わずうなりたくなります。1983年に発表されたファーストアルバム『乙女の純情』のカバージャケットはひな壇の上で奇抜な髪型に白い衣装をまとって楽器を抱えたメンバー5人が並んでいます。乙女や女の子をテーマとしたビジュアルにどこか自由で明るい反骨精神が垣間見えます。「パジャマ·パーティ」「おさな妻の嘆き」「めざせ結婚」など、曲名からは恋する乙女がイメージされ、現在ならフェミニストの方に睨まれてしまいそうな路線かと思いきや、1984年発売のセカンドアルバム『フラストレーション』では、ハナ肇とクレージキャッツの「ホンダラ行進曲」をディスコ風にアレンジしてしまうセンスも持ち合わせています。メンバー自身が称した「ミーハーファンキー」というコンセプトの通り、既成のジャンルに収まらない音楽性や型にはまらない表現力が魅力です。40年以上経った現在に聴いても、いや今だからこそ、このバンドの奔放さに心を掴まれてしまいます。