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ジブリ作品と歌 後編〜晴歌雨聴 ~ニッポンの歌をさがして 第46回

晴歌雨聴 ~ニッポンの歌をさがして

日本のポピュラーカルチャー、特に1960-70年代の音楽について研究する坂元小夜さんが、日本歌謡曲の世界を案内します。

ジブリ作品と歌 後編

スタジオジブリ作品のテーマソングを紹介するシリーズ最終回。まずは、2004年の「ハウルの動く城」について。この映画はオリジナルではなく、1989年の「魔女の宅急便」以来の翻案作品で、イギリスのファンタジー作家、ダイアナ·ウィン·ジョーンズの小説が原作です。主題歌には、木村 弓の楽曲「世界の約束」が起用されました。

木村は「千と千尋の神隠し」の主題歌「いつも何度でも」を作曲し、歌唱も担当しています。「世界の約束」は映画のための書き下ろしではなく、宮崎 駿監督がこの曲を気に入り、使用を依頼したとか。歌詞は詩人の谷川俊太郎が担当していますが、タイトルの「世界の約束」が何を意味するのか、抽象的でいろいろな解釈ができそう。「あなた」に語りかける言葉の連なりが、優しく切ない映画の世界観と一致していて心に染み入ります。

主人公のソフィーの声を担当した倍賞千恵子の優しく懐の深い歌声も秀逸。ジブリ作品のテーマソングでは、ひとつの傾向として、優しさや温かさの表現が挙げられます。しかも、ほんの少しだけ、さびしさや切なさがあるのが魅力です。

宮崎監督の審美眼は音楽にも生かされています。2011年の「コクリコ坂から」の主題歌は、森山良子の1976年の楽曲「さよならの夏」。映画のために歌詞に手が加えられ、手嶌 葵が歌いました。2006年公開映画「ゲド戦記」の「テルーの唄」でも披露された手嶌の透き通る歌声に心癒やされます。

2013年の「風立ちぬ」のテーマソングは、「魔女の宅急便」以来2回目の起用となる松任谷由実。楽曲は1973年に発表された「ひこうき雲」です。この曲は、松任谷(当時は荒井)が高校生の時、小学生の同級生だった男子の死に際して書かれたそう。映画の内容と歌詞が伝えるストーリーとの間に少しギャップがあるものの、思いが空をめぐる、という点ではぴったりです。

さて、最後の曲は2023年の「君たちはどう生きるか」の主題歌「地球儀」。米津玄師による書き下ろしで、宮崎監督が直々に依頼したとか。ジブリ作品としては珍しい男性ボーカルです。インターネット上で楽曲の発表を始めたという米津は、日本のミュージック·シーンの新世代。物語性のある楽曲が特徴的で、適度なポップ感がありながらも昔の歌謡曲にも通じるメロディーが広い世代に受け入れられています。

米津が「地球儀」を初めて宮崎監督の前で披露した際、宮崎監督は涙し、それを見た米津も感動したのだそう。これまでも映画を通して社会に問いを投げかけてきた宮崎監督。この最新作は、まさにその集大成と言えるかもしれません。映画が公開になるたび引退をほのめかすことで有名な宮崎監督も、今回は引退を口にしていないとか。次回作とその主題歌もまた楽しみです。

横浜生まれ東京育ち。大学院進学のために2015年に渡米。2020年よりロサンゼルス在住。南カリフォルニア大学大学院の博士課程にて日本の戦後ポピュラー文化を研究。歌謡曲と任侠映画をこよなく愛する。