皆さん、「リディム」という言葉をご存じでしょうか? レゲエやラヴァーズ・ロック、ダブなどジャマイカのダンスホール・ミュージックのリズムセクションを指す用語です。ここまで読んで、「おや、このコラムは日本の歌についてのものでは?」と思う人もいるかもしれませんが、実はジャマイカのダンスホール・ミュージックに影響を受けた日本の歌謡曲が存在するのです。
今年の1月、イギリスのレコードレーベル「タイムカプセル」から発売されたコンピレーション・アルバム「Tokyo Riddim 1976-1985」には、ジャマイカのダンスホール・ミュージックの影響を受けた日本の歌謡曲が8曲収録されています。ちなみに、私はこのコラムでも以前に紹介したシアトルの再販専門のレコードレーベル「ライト・イン・ジ・アティック」を通じてこのアルバムを知りました。タイムカプセルもライト・イン・ジ・アティックも決して大手のレーベルではありませんが、日本の音楽に特化した部門を持ち、独自の審美眼でキュレーションし、積極的に発信しています。
さて、本題のアルバムですが、もはや世界的なブームが落ち着き定着化しつつあるシティ・ポップが日本で人気を博していた時代に、路線の違う外国の音楽と接点を持った歌謡曲が存在していたことが分かります。また、ジャマイカと日本という文化的にも地理的にも遠く離れた音楽が出合うと、どんなポップソングが生まれるのか、という興味深い問いへの答えを示してくれています。
アルバムのライナーノーツによると、日本におけるレゲエ元年をボブ・マーリーとザ・ウェイラーズが来日した1979年とするのが一般的な見解ですが、それ以前からイギリス経由でジャマイカの音楽が日本に紹介されていたということです。ある日本音楽史研究者によれば、外国のリズムミュージックの受容は1955年頃から始まり、まずはラテンのリズム、次にマンボのブームが起こり、1960年代前半にはジャマイカのスカが紹介されていたとか。
『Tokyo Riddim』に収録されているアーティストには、平山みき、小坂 忠ちゅう、小林ミミ泉美、りりィなどが名を連ねていますが、小坂忠とりりィの楽曲はボブ・マーリーの来日より3年前のリリースだそうです。アニメ『うる星やつら』の主題歌を作曲し、作曲からプロデュース、編曲までを手掛ける小林ミミ泉美は、現在はイギリスを拠点に音楽活動を続けており海外にも多くのファンがいます。収録された楽曲はいずれも、メロウなリズムが心地良く、日本語で歌われていることにも違和感はありません。当時の制作関係者たちにとって、ジャマイカ直輸入のグルーヴ感や演奏力は日本人には真似できそうもないものだったそうです。そこで、イギリスのレゲエ・ポップバンド、UB40やロックバンド、ポリスなどが演奏するレゲエを取り入れたスタイルを参考に楽曲作りをしたようです。
なるほど、いったんイギリスを経由しているところが面白いですね。トーキョー・リディムが、シティ・ポップに続き、日本発の混成ジャンルとして注目されると良いなと思います。