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J-POP は翻訳できる?〜晴歌雨聴 ~ニッポンの歌をさがして Vol.40

晴歌雨聴 ~ニッポンの歌をさがして

日本のポピュラーカルチャー、特に1960-70年代の音楽について研究する坂元小夜さんが、日本歌謡曲の世界を案内します。

J-POP は翻訳できる?

「なぜ、J-POPはK-POPと違い、アメリカなど海外で人気とならないのか」、という議論を耳にします。諸説ありますが、K-POPは初めから海外市場を意識してアーティストをプロデュースし、プロモーションしているから、とする見方が大半です。

きゃりーぱみゅぱみゅPerfumeなど、海外で人気となった例もないことはないのですが、いずれも日本で活躍した後に海外へ進出しています。この2組は中田ヤスタカが楽曲を提供しており、翻訳を介さずオリジナルのスタイルのまま、海外の聴衆に異国の斬新なポップ音楽として受け入れられました。

そもそも、ポピュラー音楽の翻訳は可能なのでしょうか? 文学であれば、日本文学やアメリカ文学など国ごとに分けられ、それぞれが文学のジャンル、学問の分野になっています。その基準はあくまで、作者がどこの国の人か、原著が何語で書かれているか。日本語で書かれた作品は、外国語に翻訳されて初めて国外の読者に届きます。一方、日本で大ヒットしたポピュラーソングの歌詞を翻訳しても、海外で売れるためには、音楽性、ダンスなどのパフォーマンス、ビジュアルといったさまざまな要素が海外の聴衆に響かなければいけません。

先の2組は、その独特のパフォーマンスやビジュアルでも海外の聴衆を引き付けました。近年、シティー·ポップが注目を浴びているのは、ノスタルジックなムードがビジュアルやパフォーマンスの必要のない「聴く専門」の音楽として認知され、YouTubeやSpotifyなどの新しいメディアとも親和性が高かったことが大きいように感じます。個々のアーティストというより、そのジャンルに共通のサウンドが主役なので、翻訳は不要です。

K-POPの場合、音楽もビジュアルもパフォーマンスも、もともとが海外規格。最初から英語圏向けに仕上がっています。逆に海外アーティストが日本でヒットを飛ばすケースを見ても、歌詞を日本語に翻訳したり、日本向けにプロデュースし直したりはしていません。もし、ポピュラー音楽が翻訳というプロセスを受け付けないのであれば、その時点で、J-POPが英語ではなく日本語で、海外ではなく日本の聴衆向けに作られる限り、K-POPのような海外での成功は難しいのでは、と思います。

ただ、TVアニメ「推しの子」主題歌の「アイドル」で世界を席巻するYOASOBIは、アニメという武器を味方に、J-POPが海外の聴衆に届くことを証明しました。これからは他のポップカルチャーとのタイアップが成功の鍵になるかもしれませんね。

坂元 小夜
横浜生まれ東京育ち。大学院進学のために2015年に渡米。2020年よりロサンゼルス在住。南カリフォルニア大学大学院の博士課程にて日本の戦後ポピュラー文化を研究。歌謡曲と任侠映画をこよなく愛する。