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シティー・ポップはレトロ?〜晴歌雨聴 ~ニッポンの歌をさがして Vol.30

晴歌雨聴 ~ニッポンの歌をさがして

日本のポピュラーカルチャー、特に1960-70年代の音楽について研究する坂元小夜さんが、日本歌謡曲の世界を案内します。

第30回 シティー・ポップはレトロ?

2022年2月に本コラムでシティー・ポップを取り上げ、日本のポップ・ミュージックが海外で人気を集めていることについて書きました。その後も勢いは止まらず、今や日本でも注目されています。

音楽ライター、栗本 斉氏が日本の80年代のアルバムを100枚選出し解説する本によれば、シティー・ポップとは「パッと聴いた瞬間に摩天楼を想起させる都会的かつ、南国のパームツリーも思い浮かぶような音楽」だそう。一方、海外でのシティー・ポップ・ブームのきっかけを作った韓国のDJ/音楽プロデューサー、Night Tempo氏によると、日本のレトロな音楽は全てシティー・ポップと言うのだとか。日本の音楽ライターが曲の雰囲気やイメージを中心に定義したのに対して、その火付け役当人のあまりに大雑把な解釈に驚きつつも、「レトロ」という表現にはなるほど、とうなずけます。

ある音楽学者が、異文化を受容する過程について、未知なものからエキゾチックなものへの興味関心へと変わり、それが普通になると懐かしさへと移行し、最後は古くさく感じると説明しています。

Night Tempo氏のシティー・ポップの定義を借りれば、海外の聴衆にとって、聞いたこともない日本の音楽にレトロな音色やイメージを感じ取るというのは、その受容過程と矛盾します。ただ、その日本のレトロな音楽は日本独自のものでなく、西洋の音楽からの影響を大いに受けて日本ならではのアレンジが加わり成立したものなので、海外の聴衆にとっても全く未知のものではないわけです。

たとえば、1988年リリースのWinkの「愛が止まらない」は、同年にオーストラリアの女性アーティスト、カイリー・ミノーグが発表して大ヒットしたアルバムの楽曲「Turn It Into Love」のカバーです。曲のアレンジはとてもよく似ていますが、歌詞が織りなすストーリーが違います。Winkは、ガールフレンドがいる男性に思いが募る切なさを歌い、ミノーグのオリジナル版では、友だちから発展しそうな恋模様が描かれています。Night Tempo氏は、日本のポップ・ミュージックの特徴として「切なさ」を挙げていました。海外から取り入れられた音楽でも、日本風にアレンジされると、どうしてか切ない雰囲気が加わるそう。演歌を研究している身としては、これにも納得しました。切なさやもの悲しさに美しさを見出すのは、平安時代から受け継がれた日本の美意識の特徴と言えるでしょう。

話が少し逸れましたが、海外の聴衆が感じるシティー・ポップの懐かしさは、西洋音楽の影響と、日本のポップ・ミュージックならではのセンチメンタルな感性が生み出しているのかもしれません