晴歌雨聴 ~ニッポンの歌をさがして Vol.28
日本のポピュラーカルチャー、特に1960-70年代の音楽について研究する坂元小夜さんが、日本歌謡曲の世界を案内します。
第28回 日本文化は誰のもの?
前回に続き、2013 年に結成された女性 5 人組のロックバンド、BAND-MAID(バンドメイド)の話をしようと思います。
BAND-MAIDは2018 年のエイプリルフールに、BAND-MAIKO(バンドマイコ)への改名を発表し、ファンを驚かせました。その後、改名宣言は撤回したものの、翌年にはBAND-MAIKO 名義でミニアルバムをリリースします。メイド喫茶と舞妓で共通している点は多々あります。お客さまをもてなす職業であること、女性性が強調されること、その衣装が特徴的なことなどです。大きく違う点として、メイド喫茶が比較的新しい日本のサブカルチャーであるのに対し、舞妓は伝統的な日本文化と強く結び付いていることが挙げられます。
日本間の派手な屏風の前で白塗りの化粧に艶やかな着物姿の5 人がハードロックを演奏している様子は、かなり見応えがあります。「祇園町」という曲のプロモーションビデオでは京都の街中や竹林などを背景にパフォーマンスが展開され、観光ビデオとしても楽しめます。しかし、このような典型的な舞妓のイメージを利用したパフォーマンスを、「文化の盗用(カルチュラル・アプロプリエーション)」と捉える見方もあります。これは、特定の文化的な要素を、その文化に属さない人が取り入れることを意味します。
以前、アメリカ人の友人たちが日本のフォークソングをカバーするバンドとして活動し、歌詞も日本語で、原曲を丹念に研究したうえでユニークにアレンジしていました。小さなライブハウスなどで演奏をしていたところ、日本人でもないのに日本の音楽を演奏することをよく思わない人から苦情が入ったそうです。悩んだ末に、結局バンドを解散してしまいました。文化の盗用で定義される「その文化に属さない人」とは?
日本人であれば良く、日本人でないなら、いくら熱心に努力して理解したとしても取り入れてはいけないのでしょうか。人によって判断基準が異なり、なかなか難しい問題です。商業目的の場合は特に批判を浴びやすいように見受けられます。
BAND-MAIKOは日本人ですから、彼女たちの解釈でイメージを作り上げて発信してOKという考え方もあれば、文化の切り売りと捉えることもできるでしょう。何かを表現するなら、常に誰かの批判的な視線を浴びることは避けられません。BAND-MAIKOによるハードロックと舞妓の鮮やかなコントラストを目にして、ふとそんなことを感じました。