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露天風呂〜みきこのシリメツ、ハタメーワク

第 38回 露天風呂

久しぶりに日本から友だち2人を連れてシアトルに帰ってきた。家を少し空けておいたので、いろいろ片付けて、さて、お目当ては庭に設置したジャクジーである。中学校からの旧友たちと露天の風呂に入り、くだらないことをペラペラしゃべって時を過ごすはずであった。

タブの掃除をして水を入れ替えたが、電源が入らない。何度試しても、ウンともスンとも言わなくなってしまった。しようがない、タブ関係の電気屋に電話して来てもらうことになったが、10日後の予約。せっかく掃除を手伝ってくれた友だちは風呂に入れずに帰ってしまった。

「庭にジャクジーなんて、すごい金持ちだね」
なんて言われてしまったのだが、実を言うと、これは10年前の交通事故の加害者からの還付金で、コストコから安く買ったものなのだ。弁護士を立てたら請求した額の3分の1を彼が取り、私に同額をくれ、そして残りは救急車、入院費、その後2年間の整体施術料などとして手を付けずにあった。その残高が、2年後にいきなり入ってきたのだ。これは私の健康と癒しのために使うべきだと解釈し、注文した。

コストコからの配達人はカーブサイドまで、ということで家の前の歩道で下ろし、立ち去ろうとする。あわてて、裏庭まで搬送してくれないかと1人20ドルのチップで交渉。お互いマイノリティー同士で、スンナリ交渉成立。裏庭までは4、5ステップの石段がある。彼らは慣れたもので、ジャクジーを横に倒したかと思うと、側面の角は丸くなっているため、石段に毛布を敷いて、いとも簡単に転がしていく。そして庭の真ん中で梱包をほどいて帰ろうとする。設置場所は4フィート掘ってあるデッキの横だ。

「ちょ、ちょっと待って。そこに下ろしてくれないかしら?」
重た過ぎると言う。私の友だちも1人いて、その場に男は3人。270パウンドを動かせないのかな?

「あなたたち、ひとりで私を持ち上げられるでしょ? 私は100パウンドだから、3人で300パウンドは持ち上げられるよね? これは270パウンドなんだけど」
と説明すると、やってくれたのだ。前もって測って穴を掘り、それに合ったタブを注文し、まさにピッタリ収まった。感謝感激! こんなことを思い出しながら、電気屋を待った。彼が主電源のスイッチをオンにすると、一発で電源が入る。なぜ?

「スイッチはオフにしたら、30秒以上待たないと電源は入らないんだよ」
気の毒と思ったのか、電気屋は出張料だけ請求し、帰って行った。

今日は満月。以前は木の枝を切って月を見ながら入ったなぁ。

盃に踊る月呑む露天風呂

天海 幹子
東京都出身。2000年から2005年まで姉妹紙『北米報知』ゼネラル・マネジャー兼編集長。「静かな戦士たち」、「太平洋(うみ)を渡って」などの連載を執筆。2020年11月に日本に帰国。同年、著書『ゼッケン67番のGちゃん』を刊行。