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沖縄の歯医者さん〜みきこのシリメツ、ハタメーワク

第46回 沖縄の歯医者さん

東京から来ると沖縄の人は優しい。特に高齢者を大事にしている感じがする。バスを待っていたら、前に並んでいた若い男性が「どうぞ」と先に乗せてくれたり、礼儀も正しく、中学生でもちゃんと挨拶ができる。おじい、おばあと一緒に暮らしているからか。

沖縄の公共施設はおもしろい。今帰仁なきじん博物館のトイレ3つのうち2つが和式。高齢者無料の公共バスは、覚えやすいようにか「右回り」「左回り」と呼ぶ。

孫を連れてスーパーに行くと、買い物に来ているおばあが寄ってきて、あやし始める。まるで自分の孫のように。そのおばあの笑顔に逆に癒されてしまう。他人の子でも、遠い親戚、いや家族のように感じるのであろうか?

何億年もの地球の歴史の中で、この今という時間と場所を共有しているという奇跡。アメリカやアイヌの先住民族、そしてこの琉球民族にも共通している「太陽、空気、雨、植物、大地、海などの自然はみんなのものである」という感覚。1万年以上続いた縄文時代には、人間が「所有する」という考えはなかった。その子孫の沖縄の人には余裕があって、だから、のんびり過ごしているように見えるのか…。

そんなことを考えながら、歯科医の椅子に寝かされ歯周病予防の治療を待っていると、隣の高齢らしい患者に話しかけている歯科医の声が聞こえてきた。

「今までと生活を変えなきゃならんどー。自分の体、歯なんだからさ。ちゃんと磨いて、きれいにしておかんとね」

隣のおばあは黙って聞いているようだ。

「総入れ歯にするか、インプラントにするかは、よぅく考えて決めんとね。インプラントはお金と時間がかかるし、総入れ歯は保険がきくから、お金の心配はしなくていいさ。でも入れ歯を作ったところで、ちゃんと毎日はめてないといけないんだよ。はめてないと口に合わなくなるでしょ。あと4本しかない自分の歯を抜いて作るんだから、もったいないさぁ」

歯科医は50歳代の男性。インプラントにしてこれから先あと何年使えるか。少々お金を使っても20~30年使えるなら良しとするが、後10年生きられるか、その間硬いものをかんで食べる生活をしているのか。

では、総入れ歯? 最後の4本を全部抜いてしまって作るのか。これまで70年強、一緒に生き抜いてきた健康な4本の歯だ。最後まで生かしてあげたい。私には即答はできないと思った。これからはしっかり歯を磨いて、大事にしてあげないと。

はい、ちょっと口開けてみましょうね」

私の番が来た。

天海 幹子
東京都出身。2000年から2005年まで姉妹紙『北米報知』ゼネラル・マネジャー兼編集長。「静かな戦士たち」、「太平洋(うみ)を渡って」などの連載を執筆。2020年11月に日本に帰国。同年、著書『ゼッケン67番のGちゃん』を刊行。