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チーズタッカルビ〜みきこのシリメツ、ハタメーワク

第25回 チーズタッカルビ

10月に入り、急に寒くなったり、また真夏日になったり、かと思えば大雨で洪水が記録されたりとなかなか秋晴れのさわやか日が訪れない。と杞憂していたところ、やっと来た。ちょうど毎月28日、不動尊の縁日の日である。空の青さが目に染みるほど。亡き父が毎日散歩していた懐かしのお寺にお参りを兼ねて行ってみた。男坂、女坂の階段を上がった上はお寺で、お参りの人で渦巻いている。ちょうどお経が始まったところだ。下の広場は屋台がひしめいている。

高校生の頃、お不動さんはもとより祐天寺、大鳥神社、八幡さまとお祭りのたびにハシゴした思い出がある。特に大晦日、元旦にかけては近所の悪ガキと肩を張って歩きまくった。当時はピンクに塗られたヒヨコを売っていたりしたものだ。小学生の頃に住んでいた日本橋では、べったら市なんかあったな。セルロイドのおままごとのお皿とか買ってもらって、それからだろう、縁日回りが身に付いてしまったのは。

その日も金魚すくいや射的などはともかく、もっぱら買い食いするのが目的で散策。綿菓子、あんず飴、焼きそば、お好み焼き、味噌おでんなど昔からの屋台のほかに、近頃はアユの塩焼き、広島焼き、チーズタッカルビなるものも出ている。取りあえずその韓国料理を食べてみたいと思った。

鶏肉、キャベツ、玉ネギに、薄く切ったお餅のようなトック、長ネギなどをキムチ味のソースでちょっと甘辛く炒め、最後にすり下ろしたチーズを絡め、溶けて熱々のところを頬張るのである。

「お持ち帰りですか?」
「ええ、すぐそこだから」

と、本当は立ち食いしたいのだけれど、古希を過ぎた老婆がひとりですることじゃないような気がして、詰めてもらった。

お金を払い、サーっと行こうとすると、
「おねえさん、お箸!」

と声をかけられた。わーっ、久しぶりだわ。おねえさん、なんて言われるの。一瞬振り返りそうになった。本当に私のこと?

「大丈夫。うちにあるから」

ちょっと恥ずかしさを隠しながら、いそいそと、ホクホクしながら、家路を急いだ。

娘と同じ歳くらいの売り子さんだったが、何とも粋な屋台のお姉さんである。

天海 幹子
東京都出身。2000年から2005年まで姉妹紙『北米報知』ゼネラル・マネジャー兼編集長。「静かな戦士たち」、「太平洋(うみ)を渡って」などの連載を執筆。2020年11月に日本に帰国。同年、著書『ゼッケン67番のGちゃん』を刊行。