Crazy Rich Asians
(邦題「クレイジー・リッチ!」)
劇場公開後2週間連続で興行収入ナンバーワンという大ヒットを続けているロマンチック・コメディーだ。しかも、メイン・キャストが全てアジア系。これは93年の「ジョイ・ラック・クラブ」以来という。ラブコメ苦手派ではあるが、楽しめる作品だった。
ニューヨーク大学で経済学を教えるレイチェル(コンスタンス・ウー)が、恋人のニック(ヘンリー・ゴールディング)の親友の結婚式に誘われ、彼の母国であるシンガポールに行くことに。着いてみると、彼の一族ヤング家はシンガポールを代表する大富豪で、超セレブなライフスタイルに仰天。しかも、初対面のニックの母(ミシェル・ヨー)に見下され、ニックを狙う女たちの嫉妬といじめの標的となって、レイチェルは落ち込んでいく。だが、大学時代の親友(オークワフィナ)の心強い応援を得て、レイチェルは誇りを取り戻し、次第にヤング家の富と家柄重視の影に触れていく。
愛し合うふたりの障害となる頑固な母と狡猾な元カノ、主人公を応援する親友とその家族やゲイのデザイナー、美貌のニックの従姉妹などなど、かなり多くの脇役が登場。悩める主人公の物語と同時に、セレブ暮らしに慣れきった彼らのクレイジーなエピソードも多く描き出されていく。
ラブコメの主人公は最後に必ず結ばれる。そんな謎のない作品の命題は、その結末までをどう見せていくか。本作はその紆余曲折にラブコメの王道を行く見慣れた脇役を登場させ、多くの笑いの要素を加えていくのだが、よく整理されていて、混乱がなかった。これはなかなか至難の技である。
また、へこんでいた主人公が自分を取り戻していく過程も、ウーの好演のおかげで説得力十分。舞台がシンガポールという新鮮さに加え、ゴージャスな設定、よく書けた脚本と手際の良い演出など、全てがうまく機能して、作品の成功につながった。監督はダンス映画やアクションを手がけてきたジョン・M・チュウで、無駄のない演出が軽快で特筆したい。
原作はシンガポール出身のケビン・クワンの同名小説。たぶん、この原作が大ヒットのカギではなかったか。クワン自身のよく知った世界、巨大な富を持つことの不遇な側面を実際に体験、見聞きした人だからこそ書けた物語で、このシンデレラのような非現実的物語にリアリティーという重しを加えていた。