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『Room』 (邦題『ルーム』)

小さな空間に広がる大きな想像力
『Room』
(邦題『ルーム』)

©A24 Films
©A24 Films

小さな部屋で生まれ、テレビ以外の外界を知らずに育った5歳のジャック(ジェイコブ・トレンブレイ)の声で語られる世界。ジャックの母ジョイ(ブリー・ラーソン)は19歳の時に誘拐され、犯人の家の裏庭にあるこの部屋に閉じ込められた。以来7年、彼女はママになり、ジャックを育ててきた……。犯罪サスペンスのような設定だが、本作の狙いはまったく違っていた。本年度アカデミー賞の作品賞、監督賞、脚色賞、主演女優賞4部門でノミネートされ、ラーソンが主演女優賞を受賞した作品だ。
犯罪によって作り出された異様な空間で、母と息子はどのように生きてきたのか? ジャックにとって世界はどのように存在するのか? 天窓から射す光を通して見える部屋のほこりが動く様や、ママと作り出したゲームで遊ぶ楽しさ、豊かな想像力を持つジャックの世界は少しも小さくない。
狭い部屋を舞台に描かれる息子と母を描く前半から、後半は一転、二人の脱出後の世界が描かれる。ジャックとジョイはどのように外界での暮らしに向き合ったのか。対照的な二人の反応、後半になって初めて、長年自由と尊厳を奪われた続けたジョイの精神的打撃の大きさが際立ってくる。
同名小説の原作者であるエマ・ドナヒューが脚色した脚本が素晴らしく、対比を見せる前半と後半を巧みに書き分けた手腕に感心。非人間的状況に置かれたジョイが知性と忍耐を保ち、息子への愛を糧に生き延びる姿に人間の持ちうる可能性と強靭さを垣間見せてくれた。
監督は不可思議なコメディ『マイケル』を撮ったレニー・アブラハムソン。ジャックが生まれて初めて階段を上る時の不器用な様子など、外の世界と初めて出会った子供の目線で描く世界に卓抜した演出力を見せている。またノーメイクでジョイを演じたラーソンの渾身の演技と、幼いトレンブレイの生き生きとした子供らしさが愛らしく完成度の高い映画作品に仕上がっている。
上映時間:1時間58分。シアトルは Crest Cinema Centerなどで上映中。

[新作ムービー]

映画ライター。2013年にハワイに移住。映画館が2つしかない田舎暮らしなので、映画はオンライン視聴が多く、ありがたいような、寂しいような心境。写生グループに参加し、うねる波や大きな空と雲、雄大な山をスケッチする日々にハワイの醍醐味を味わっている。