『La La Land』
ミュージカル映画を観て、ワクワクと胸が湧き立つ体験を何度もした。『雨に歌えば』『パリのアメリカ人』『バンドワゴン』などハリウッド黄金時代を飾ったミュージカル映画の数々。本作はロサンゼルスを舞台に、売れないジャズ・ピアニストと女優の卵の出会いを描いたロマンチックなミュージカル作品で、歌も踊りも、作品のスケールも、先達の足元にも及ばない出来栄えではあるが、なぜか観るものを魅了する力があった。
まず冒頭のハイウェイのシーンでハートを掴まれた。渋滞した路上に数珠繋ぎになった車の間をぬって、歌い踊る人々をワンカットで一気に見せるシーン。軽やかな歌と複雑に構成されたダンス・ルーティーンを100人のダンサーらが見事に踊りきり、「これぞミュージカル!」の気概を見せるスタートだ。
そして、シーンの最後に主人公の二人、オーディションに向けてセリフの練習をするミア(エマ・ストーン)と、渋滞にイライラするセバスチャン(ライアン・ゴズリング)がそれぞれの車中にいて…。
その後、恋に落ちた二人は、甘く美しい時を分かち合い、見つめ合ううちに思わず歌い、踊り出す。ミュージカル映画の王道を行くたシンプルでドリーミーな物語だ。映画ファンならカラフルな衣装に『シェルブールの雨傘』を、ビタースィートなエンディングに『ニューヨーク、ニューヨーク』を思い出すかもしれない。本作は今や絶滅してしまったミュージカル映画への憧憬が
溢れている。
脚本・演出は『セッション』のデミアン・チャゼルで、32 歳の気鋭映画作家で、素晴らしい音楽の数々はチャゼルの大学同級生ジャスティン・ハーウィッツ。二人は現代を舞台にしたミュージカル映画を作ろうと奔走し、何度も挫折。14年の『セッション』の成功を得て、ようやく本作の製作が可能になった。そんなバックストーリーは、主人公ふたりの姿と重なる。
本作のためにピアノを特訓したゴズリング、ダンスの特訓を続けたストーン、共に健闘しているものの、歌も踊りもプロ級と言えない。だが、夢を追い続ける不器用な二人の真剣さはしっかりと伝わった。
本作は、ゴールデン・グローブ賞で作品賞を始め7部門で受賞後、アカデミー賞では『タイタニック』に並ぶ14部門でのノミネーションを獲得。本作でまだ3作目の新進チャゼル監督、夢の街ラ・ラ・ランドで夢を実現した人の一人と言えるだろう。
上映時間2時間8分。
シアトルはシネコン等で上映中。
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