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Fire of Love /ファイアー・オブ・ラブ 火山に人生を捧げた夫婦〜最新の注目ムービー

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マグマのように熱い生涯


Fire of Love

邦題「ファイアー・オブ・ラブ 火山に人生を捧げた夫婦

本年度のアカデミー賞ドキュメンタリー部門でノミネートされた作品を紹介しよう。フランス人火山学者のカティア・クラフト、モーリス・クラフト夫妻の火山調査・研究活動を追ったユニークなドキュメンタリー映画だ。夫妻は1991年の雲仙・普賢岳噴火の際、大火砕流に巻き込まれ亡くなった43人の中の2人で、カティア享年49、モーリス享年45。世界中の火山噴火を調査したふたりの生涯は想定した通り、同じ場所、同じ時間で幕を閉じたのである。

本作はドキュメンタリーには珍しく、友人や学者らへの新たなインタビューなどが一切入らない。ふたりが1970年代から始めた映像による記録200時間分と、50時間にわたるメディアのアーカイブ映像のみを編集して製作されている。膨大な記録映像と写真を残したクラフト夫妻は火山写真・映像のパイオニアと言われ、それまで誰も近付くことをしなかったオレンジ色に吹き上げる巨大な噴火の様子や、ドロドロと流れる真っ赤な溶岩を間近で撮影した映像の数々は、今でも貴重な火山研究記録として扱われている。その映像は文句なしに迫力満点。監督は、多くの社会派のドキュメンタリー映画を製作してきたサラ・ドーサだ。ナレーションを担当するミランダ・ジュライのもの静かな語りが、作品にリリカルな印象を持たせて味わい深い。

前半はふたりが強く引かれていた赤色の火山の調査風景を描く。というか、無邪気に戯れているようにすら見える。急流のごとく流れる溶岩の脇をウキウキと歩き、吹き上げる溶岩が今にも降り落ちてきそうな場所でも、好奇心いっぱいにその様子を観察するカティアとモーリス。一見、無謀にも思えるが、専門家が見ると十分な注意が払われていたと言う。

その後、ふたりの研究は灰色の火山へと移っていく。赤色火山は動きの予想が可能で、見た目ほど危険性はないと話すモーリス。だが、灰色火山は動きの予測が不能で、噴火後のスピードも速く、危険度が高いと警鐘を鳴らしていた。そんな彼らの警告を無視したコロンビア政府は、1985年のネバド・デル・ルイス火山の噴火で2万3,000人もの犠牲者を出してしまう。そして、普賢岳の噴火はまさに灰色だったのである。

昨年11月、私が住むハワイ島の火山で噴火が始まり注目を浴びた。それもあって、噴火に熱狂する気持ちは少しだけわかる。噴火が始まるとワクワクするのだ。クラフト夫妻の熱狂はその何十倍ものものだったろう。カティアが溶岩の淵を歩くシーンにかぶるのは、ダリダの歌う「Je me Sens Vivre」。「あなたを愛しているから生きられる」と情熱的に歌い上げているのだが、その愛はモーリスへのものなのか、火山へなのか、むしろ両方のように思えてならない。「怖いけれど噴火の近くに行くと全て忘れてしまう」と語るカティア。普賢岳で「明日死んでも構わない」と口にするモーリス。ふたりのこれ以上ない濃密な関係と生涯に、心はマグマのように熱くなった。

Fire of Love

邦題「ファイアー・オブ・ラブ 火山に人生を捧げた夫婦

写真クレジット:National GeographicDocumentary Films、Neon再生時間:1時間33分Disney+、Huluで視聴可能。

映画ライター。2013年にハワイに移住。映画館が2つしかない田舎暮らしなので、映画はオンライン視聴が多く、ありがたいような、寂しいような心境。写生グループに参加し、うねる波や大きな空と雲、雄大な山をスケッチする日々にハワイの醍醐味を味わっている。