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Poor Things(邦題「哀れなるものたち」)〜注目の新作ムービー

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主人公の姿が想像力を刺激


Poor Things
(邦題「哀れなるものたち」)

「ロブスター」や「女王陛下のお気に入り」など異色な作品を多く撮っている鬼才、ヨルゴス・ランティモス。この監督の作品を観る時は、期待と共にちょっと構えてしまう。一体どんな映画なのか予想がつかず、常に思わぬ展開が待っているからだ。本作もまた、ファンを裏切らないシュールでコミカルな作品。本年度のアカデミー賞で作品賞、監督賞、主演女優賞、助演男優賞など11部門にノミネートされている話題作だ。

舞台は19世紀後期ビクトリア時代のロンドン。異能の外科医、ゴドウィン・バクスター博士(ウィレム・デフォー)は、子どものような立ち振る舞いをする奇妙な女性と暮らしていた。実は彼女、橋から身投げしたベラ・バクスター(エマ・ストーン)で、博士は妊娠中だったベラの胎児の脳を移植して蘇生させたのだ。弟子のマックス・マッキャンドレス(ラミー・ユセフ)に彼女の行動を観察させるが、マックスはベラに恋してしまう。

博士はベラとマックスとの結婚を計画。だが、結婚契約書を依頼した放ほうらつ埒な弁護士、ダンカン・ウェダバーン(マーク・ラファロ)に誘われ、ベラは出奔。性の快楽に目覚めたベラは、ダンカンと遊ゆうとう蕩の旅に出かけ、欧州各地を回る。ベラの急速な成長は止まらず、次第にダンカンの手にも負えなくなっていく。

このベラの変化が実に面白い。ディナーの席で豪華な衣装をまといながら、素手で食べ物を口に突っ込み、性について思ったままを語る。ダンカンは無作法を止めようとするが、彼女には無駄なこと。ベラは自由奔放に関心の赴くまま動き、世界を知っていく。屈託なく言葉を口にするベラが痛快だ。独特なユーモアのある脚本は、「女王陛下のお気に入り」も担当したトニー・マクナマラ。

そんな台詞のニュアンスを見事にくみ取り、ストーンが生まれたままの女性を快演している。全裸で体当たりする性行為シーンの数々に驚くが、感心したのはわいせつ感やエロティシズムの強調がなかったこと。ストーンの持つ個性と、ランティモス監督の演出手腕によるものでもあるが、本作はそこに主眼を置いていないということなのだろう。ただし、レーティングはR18。

後半になって明かされるベラの自殺の理由が、作品理解へのキーとなる。「ビクトリア時代の抑圧の中に生きた女性が、大人の体のまま子どもの脳で生まれ変わったら?」と仮定して展開される、女性の冒険の物語。女らしさのすり込みや偏見のないまま生きることの解放感を見せつつ、ベラのように自由になれたらと、観る者の想像力を刺激してくれる。原作を手がけたのはスコットランドの小説家、アラスター・グレイだ。

最後に、アカデミー賞でもノミネートされた衣装デザインや美術の素晴らしさも特筆したい。モノクロとカラーを織り交ぜた映像の美しさと、時折見せるグロテスクさ。スタジオだけで撮影した背景は、美術監督らによってゴージャスな唯一無二の世界観が引き出され、目も心も奪われた。一度観ただけでは堪能し切れない凝ったディテール。ぜひリピートして楽しみたいという思いにさせてくれた。

Poor Things
(邦題「哀れなるものたち」)

写真クレジット:Searchlight Pictures上映時間:2時間21分シアトル周辺ではシネコンなどで上映中。

土井 ゆみ
映画ライター。2013年にハワイに移住。映画館が2つしかない田舎暮らしなので、映画はオンライン視聴が多く、ありがたいような、寂しいような心境。写生グループに参加し、うねる波や大きな空と雲、雄大な山をスケッチする日々にハワイの醍醐味を味わっている。