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ナイキが運動靴の意味を変えた
AIR
邦題「AIR/エア」
運動靴がファッションのアイコンになったエア・ジョーダン(以下AJ) の誕生は、スポーツ・マーケティングの革命的な出来事と言える。本作はそんなナイキの成功物語の再現で、豪華なキャストと絶妙なセリフ、80年代の大ヒット曲を全編に散りばめた上出来の娯楽映画だった。監督は俳優のベン・アフレックだ。
1984年、ジョギング・シューズをメインとしていたナイキは、バスケ・シューズのシェアで競合ブランドに圧倒的差をつけられ業界3位と低迷。ギャンブル好きなバスケ部門のソニー・ヴァッカロ(マット・デイモン)は、起死回生を狙う戦略を練る中で、NBAシカゴ・ブルズのルーキー、マイケル・ジョーダンのプレーを見てひらめく。「彼こそNBAの未来を担うスーパースター」との確信を持ち、社長のフィル・ナイト(アフレック)に、5人分で用意していた契約金の全てを注ぎ込んでもジョーダンと契約すべきと力説。だが、フィルは先もわからない新人へ、前代未聞の多額契約金を積むことに難色を示す。しかもジョーダン自身はナイキが嫌いで、競合ブランドのアディダスが好きという情報も入っていた。
果たして、ソニーはどのようにナイキ社内をまとめ、ジョーダンを説得したのか? そして、AJは誰のネーミングで、どのように生まれたのか? そんな観客の好奇心を満たすエピソードがてんこ盛り。男たちの機転と粘りで、負けゲームを奇跡的に勝利へと導いていくプロセスは、結果がわかっていても大いに楽しめる。
AJは、当初の販売目標額が3年間で300万ドルだったところを、なんと1年目にして1億2,600万ドルを売り上げるという驚異的な大ヒットとなる。本作を通して、AJがジョーダンのシグネチャー・ラインとして生まれ、1足の売り上げごとにロイヤリティーを払う契約であることや、その条件を母親が契約時に提示したことを知った。息子を信じ、彼の偉大なる未来を予見していた母、デロリスをビオラ・デイビスが力強く演じ、作品に重みが出たように思う。
ちなみに「ジョーダン」シリーズは昨年だけでも50億ドルを売り上げる怪物ブランド。まさにマーケティングのお手本だが、成功のカギはジョーダン自身のたぐいまれなるスター性にある。全盛期の動画を見ると、並外れた身体能力を持つことは一目瞭然。ファンでなくてもワクワクさせられる。90年代のジョーダンの活躍についてはNetflixのドキュメンタリー「The Last Dance」が詳しく、原作を書いたアレックス・コンヴェリーもこの作品に触発されて脚本を書き上げたと聞く。NBAには信じられないような多くのドラマが潜んでいる。
AIR
邦題「AIR/エア」
写真クレジット:Warner Bros.
上映時間:1時間52分
シアトル周辺ではBig Pictureなどで上映中。