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底のある笑い『Three Billboards Outside Ebbing, Missouri』

 

上映時間:1時間55分
写真クレジット:Fox Searchlight Pictures
シアトルではシネコンなどで上映中。

本作の脚本・監督を担当したマーティン・マクドナーの脚本は抜群に面白い。劇作家出身らしい台詞・言葉へのこだわりがあるからなのだろうか、脇役のたったひと言に至るまで考え抜かれ、笑わせてくれる。それが彼の「ヒットマンズ・レクイエム」や「セブン・サイコパス」を見た感想。バイオレンスとユーモアのバランスが絶妙で、北野 武の作品みたい、と思ったら彼の大ファンだという。

ミズーリ州の小さな町が舞台。ティーンの娘を殺された母のミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)が、警察の無能ぶりを非難する3つの巨大広告看板を道路沿いに掲げた。そこには「娘はレイプされ、恐怖の中で死んだ」「なぜ犯人は捕まらないのか」「ウィロビー保安官は何をしている?」という抗議のメッセージ。悲しみと怒りで怖いものなしになった母の暴挙とも思える行動が、町中を巻き込み、トラブル続出。先の読めない物語が描かれていく。

名指しで批判され困惑する保安官にウディ・ハレルソン、ミルドレッドを敵視する人種差別者の警官にサム・ロックウェル、若い女と暮らす不実な元夫にジョン・ホークス、ミルドレッドに無視されつつも彼女を慕う男にピーター・ディンクレイジと、癖のある役どころの脇役をベテランで固め、マクドナーらしいセンスの光る台詞と手際の良い演出で物語がトントンと進んでいく。

マクドナーの前2作は、マヌケな男たちのドタバタにケラケラ笑って、「ああ面白かった」という軽さが特徴的だったが、本作はだいぶ違っていた。頑固の塊となったマクドーマンドの圧倒的な存在感と好演が物語を牽引し、いくら物語がドタバタしても物語の核が消えない、軽くならないのだ。笑っても笑っても笑いに底がある感じ、とでも言うべきか。

最後まで小競り合いを続けるブラックな警官ロックウェルとマクドーマンドの対立を通して、ふたりを支配し続けた感情にたどり着くエンディングも秀逸。コメディーながらも人を狂わせる悲しみと怒りを描き出し、マクドナーとしては最良の作品が生まれた。ちょうど、この記事が出る直前に発表となる今年のゴールデングローブ賞の作品賞、監督賞、脚本賞など6部門でノミネートされている。

[新作ムービー]

映画ライター。2013年にハワイに移住。映画館が2つしかない田舎暮らしなので、映画はオンライン視聴が多く、ありがたいような、寂しいような心境。写生グループに参加し、うねる波や大きな空と雲、雄大な山をスケッチする日々にハワイの醍醐味を味わっている。