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「TENET テネット」1回の鑑賞では理解不能のSFアクション

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1回の鑑賞では理解不能のSFアクション

TENET
邦題「TENET テネット」

「ダークナイト」や「インセプション」、「インターステラー」などを大ヒットさせてきた英国の名匠、クリストファー・ノーラン監督の最新作だ。期待して見たのだが、「逆行する時間」という不慣れなコンセプトが1回の鑑賞では理解不能。2回観たが未だ不消化という異色のSFアクション作品であった。

ジャンルはスパイ映画だ。特殊部隊に参加していた主人公(ジョン・デヴィッド・ワシントン)が謎の組織「TENET」のテストにパス。「逆行する弾丸」を科学者から見せられ、この物質の出どころを突き止めようと動き出す。その結果、ロシア人の武器商人であるアンドレイ・セイター(ケネス・ブラナー)が、未来から送られてきた時間を逆行させる装置「アルゴリズム」を探し出し、全人類の滅亡をたくらんでいることをつかむ。これを阻止するため、主人公はセイターの妻のキャット(エリザベス・デビッキ)に近付き、有能な工作員のニール(ロバート・パティンソン)の協力を得て、順行する時間と逆行する時間が同時に存在するという超絶アクションを展開しながら任務を続けるという話だ。

見どころはアクションシーンに詰まっている。ノルウェーやエストニアなどを舞台に繰り広げられる、壮大で凝りに凝った順行逆行同時進行のスリリングなアクションに度肝を抜かれた。カーチェイスでは、目の前をバックしながら疾走する車がボコボコになりながら回転し、回転を終えると車の凹みがなくなっていたり、同じ人物が同じ場面でふたり存在したり、過去のミッションの場面に別の目的でもう1度戻ってみたり。えええ、今、何が起きているの???の連続。だが、全編を貫く不安定な時間感覚の意外性と、さえわたる映像美に魅了される2時間半だった。ノーランのファンなら何度も観て不可解な場面の謎を解きたくなる、そんな仕上がりの作品。苦手な人は1回でギブアップかもしれない。

醍醐味にあふれる本作で気になったのは、長身スリムな美女、キャットの設定だ。幼い息子をセイターに人質に取られ、彼からの虐待も運命と受け入れ、目を潤ませ弱々しく「私には子どもしかいないの」と語る。いかにもはかなげな美女は、主人公の奔走の動機付けに必要なのだろうが、何やら古めかしい。アルゴリズムやエントロピーなどの最先端理論を駆使し、自在に時間を行き来する男たちの中で、なぜ彼女は自由を求めず、過去の女性像に閉じ込められているのか。女が危うげを装うのは男を取り込む手段ともなり、前世紀の女はそんな技に長けていた。それは女が自らの力を実感できない時代だったからだ。キャットだけが前世紀の遺物然とし過去に置いてきぼりでは、納得できない。そんないら立ちを禁じ得なかった。

TENET
邦題「TENET テネット」

上映時間:2時間30分

写真クレジット:Warner Bros. Entertainment

シアトルではシネコンおよびIMAXシアターで 上映中。

土井 ゆみ
映画ライター。2013年にハワイに移住。映画館が2つしかない田舎暮らしなので、映画はオンライン視聴が多く、ありがたいような、寂しいような心境。写生グループに参加し、うねる波や大きな空と雲、雄大な山をスケッチする日々にハワイの醍醐味を味わっている。